第13話 再びの敵
「ぐぅ……くそ! 魔物なんかに、この俺が!」
痛みを堪えて剣を振ろうと騎士が動くと、異形の魔物が左腕に付いている爪で騎士の体を斜めに切り裂いてしまう。
切り裂かれた体から血を激しく流し、力なく地面に騎士が倒れると美桜が悲鳴を上げて駆け寄ろうとしていた。
「来るな……来たら死ぬぞ……」
「で、でも! 私なら治せるかもしれないわ!」
「そんな魔法があるわけないだろう……」
そう言いながら何度も咳き込んでしまう騎士。
美桜はそれでも助けるわと叫ぶと、騎士に近寄って出雲にかけた治癒魔法を発動する。
「支援して! 治療をしていたら対処できないから!」
「わかってるよ! 俺が守るから!」
1人で戦うことになってしまうも、守ると約束をした以上は守らないとなと微笑をしながら剣を握る手に力をいれる。
「さて、お前は昨日の刺客で確定だよな? 美桜をそこまでして殺したいのか?」
異形の魔物に変化をしている刺客に話しかけるも、威圧感のある声で殺すまでだとしか返答をしてこない。なおも続けて他の理由はないのかと話しかけ続けていると、命令だと返答をしてくる。
「命令? それは誰がしているんだ!」
「それを言う必要がない!」
威圧感を放ちながら異形の魔物が短剣と爪を用いて、器用に交互に振るってくる。
出雲はその攻撃を銀光の剣にて防ぐことで精一杯であった。
「攻撃が激しくて受けるだけで精一杯だ! 昨日はここまで強くなかったのに!」
昨日とは強さが段違いだと感じて気を緩めたら一撃で殺されると察するも、それでも戦って目の前の異形の魔物を倒さなければならない。
出雲は鍔迫り合いながらも、剣身に左手を添えて火属性の魔力を付与させていく。
「お前はここで倒す! この俺がここで!」
「やってみせろ! お前はあの女の前で死ぬんだ!」
燃える剣を握る手に力をいれて、鍔ぜり合っている爪を上部に弾く。
そして流れるように剣を水平に振るうが、その攻撃は短剣に防がれてしまう。
「防がれるのは承知の上だ!」
叫びながら下段上段中段と連続で斬りかかるが、異形の魔物は息を乱すことなく出雲の攻撃を短剣や爪を使用して防ぐ。
「それだけか? お前の力はそれしかないのか?」
「ふざけるな! 俺にはまだ力がある!」
右手で剣を握り左手をフリーにすると、出雲は距離を取って空いた左手を異形の魔物の足元に向けた。
「氷結!」
その言葉と共に異形の魔物の両足を凍らせた。
「これならどうだ!」
動きを止めたのでこれで攻撃ができると思った瞬間、異形の魔物が軽々と氷を砕いて爪で攻撃をしてくる。
「ぐぅ! どうして!? ちゃんと凍らせられたはずだ!」
「あの程度でか? 昨日のお前はもっと強く感じたんだがな」
何度目かわからない異形の魔物との鍔迫り合いの最中、どこか憐れみの視線を浴びせられているように感じた。
「俺はそんなに弱くない! 今までだって死線を潜ってきたんだ! 俺はそこまで弱くない!」
「そう思うか? お前はそれほど強くないぞ!」
異形の魔物は出雲の剣を弾き飛ばすと、短剣で体を斬りつけようとする。
「くそ! ここでやられるわけには!」
円形の氷の盾を作ると短剣によって一撃で壊れてしまい、呆然とした顔をしていると腹部を勢いよく蹴られて地面に倒れてしまう。
「がは……ぐぁ……」
口から血を吐いて苦しそうにしている出雲に近寄り、胸倉を掴んで持ち上げる。
「弱い。たかが私程度に負けているようじゃこれから先、あの女を守ることは不可能だぞ」
昨日とは一人称の言い方が違うと思うも、今は何かをしなければ殺されてしまうと焦っていた。
「例え弱くても……守るくらいは出来るはずだ!」
右手に火球を左手に風球を発生させ、2つの球を合わせながら目の前にいる異形の魔物の腹部に向けて放つ。
火と風を纏っているその拳大の球体はゴム同士が擦れるような音を放ちながら異形の魔物の腹部に衝突し、空に向かって火と風を纏う柱のように伸びる。
「何だこの攻撃は!? 見たことがないぞ!」
「俺のオリジナルの風火球だ! 相手に当たると空に向かって風と火を纏う柱が発生して焼き尽くす魔法だ! そう簡単に脱出はできないだろ!」
これでどうだと言っている出雲に対して異形の魔物は見掛け倒しだと一蹴し、爪を横に振るって魔法を切り裂いてしまう。
「初めは見たことがない魔法だったから驚いたが、受けてみれば見掛け倒しの魔法だったな。威力もなくてしょぼい魔法だ」
バッサリと否定をされてしまい、出雲は目を見開いて歯を食いしばって睨みつける。
「あの魔法はこれまで多くの魔物に有効だったんだぞ!?」
「私には無効だったというだけだ。お前はこのまま守れずに死ね!」
異形の魔物の持つ爪が眼前に迫ると、後方で治療をしている美桜の声が聞こえてくる。
「避けて!」
その声が耳に入ると、円形の氷の盾を作り出して爪の攻撃を防いだ。
「美桜の声が聞こえて助かった……ありがとう!」
前を向きながら美桜に感謝をすると、異形の魔物に吹き飛ばされた剣を見つけた。
銀光の剣は美桜の側に落ちており、出雲は美桜に剣を投げてと叫ぶ。
「わかったわ! もう飛ばされないでよね!」
「おう!」
美桜の方を向くと自身に銀光の剣が投げられていた瞬間であり、剣を掴むと異形の魔物に向けて本気を出すと宣言をする。
「今までは本気ではなかったということか? そうは見えなかったが?」
「まだ出していない魔法があるんでね。それにこのやり方は体への負担が大きいから使うなと言われているんだ」
「ほう……それで私に勝てるというのか?」
「どうだろう。でも、勝つにはこれをするしかないんでね!」
剣を両手で握ると出雲は、目を瞑って全身に自身の魔力を流し始める。
「この魔法は……魔力で強制的に身体能力を上げる魔法だ……」
歯を喰いしばりながら全身に魔力を巡らすと、出雲の体から淡く白いオーラが出ていた。
「何だその姿は? それが本気の姿か?」
「そうだ! これが俺の切り札だ!」
剣を握りながら行くぞと声を発して両足に力を込めて一気に距離を詰めると、その速さに驚いた異形の魔物が短剣で出雲の攻撃を防ごうとしていた。
だが速度が加えられた出雲の攻撃はとても重く、短剣を砕いて異形の魔物の体を縦に切り裂くことに成功をした。
「よし! 初めてダメージを与えられた気がする! このままお前を倒す!」
「たかが一撃でそこまでいい気になるな!」
砕けた短剣に異形の魔物が魔力を流し込むと、昨日見た黒い剣に変化をした。
「主から授かったこの剣で、目的を果たす!」
異形の魔物は右手で持つ黒い剣を力強く握り締めると、呻き声を上げながら左腕が変化を始めていた。
「この腕じゃ邪魔だ! 元の腕に変えなければ!」
元の腕に変える。
そう声を上げて言うと左腕が変形を初めて人間の腕に変化をし、その異常な現象を見た出雲達は不気味で恐ろしいと感じていた。
「よし。これで動きやすくなったな」
「本当に襲ってきた刺客なんだな……どうしてそこまでして襲ってくるんだ?」
「それは主のためさ……俺は……私は……主様に力を授かったんだ! この力で命令通りに遂行する!」
主様と先ほどから言い続けているので、その主様が美桜の父親ではないかと察するものがあった。
「例え強くても、俺は守ると決めたんだ!」
「なら守って見せるがいい! 叶わない夢を抱くな!」
2人は叫びながらお互いの剣で斬り合うと、辺りに重い金属音を響かせながら何度も斬り合いを続ける。上段下段と連続で斬り合いをしていると、後方から騎士の声が聞こえてきた。
「配達士にも根性があるやつがいるんだな……」
消え入りそうな声で騎士が立っている姿を横目で見ると、無理をするなと話しかける。
「君1人でやらせはしないよ……この娘に治療をしてもらったからもう元気さ。さ、一緒に戦おう!」
「ありがとうございます!」
連続で異形の魔物の姿をしていた刺客に対して攻撃を仕掛けると魔力を込めた右足で腹部を蹴り上げることができたので、出雲はそのまま騎士の元まで下がることにした。
「良い判断だ。今は1人で先行することはない」
「はい!」
出雲と騎士が横に並んで武器を構えると、美桜が何か魔法を唱えていることに気が付いた。
「支援をするわ! 女神の祝福!」
女神の祝福と美桜が言葉を発すると、出雲は全身を暖かい何かで包まれた気がした。
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