第16話 新たな家
「い、いいんですか!? お金払ってないですよ!?」
手渡されたパンはウィンナーパンとコロッケパンであり、出雲はお金を払っていないのに申し訳ないとパン屋の店主に言うとパン屋の店主は気にするなと言い、さらに焼きそばパンを渡してくる。
「これも持ってけ。誰も買いに来ないから廃棄になるパンだ。お前に食べてもらった方が嬉しいだろう」
パン屋の店主が笑顔でパンを譲ってくれると、出雲はその好意に甘えることにした。
「ありがうございます! 大切に食べます!」
「ゆっくり早めに食べてくれよ。腐ったら食べられなくなるからな」
「気を付けます!」
パンをもらってから数分間、パン屋の店主と話してから家へと向かう。
道中では誰ともすれ違うことがなく、暗い夜道を歩き続ける。ここまで静かな武蔵を見ることが初めてな出雲は、異常なこの光景を心に刻む。
「俺だけじゃなけど、町に被害が出てしまった結果がこの有様か……もうこんな風にならないように俺はさらに強くならないと……」
夜空を見上げながら決意を胸に秘めて家へと歩き続けていると、目の前に仁に言われた家が見えてくる。
既に商店街から出て1時間が経過をしており、出雲はもらったパンを歩きながら食べていた。
「流石に遠すぎるわ! 食べながら歩いていたけど、遠い! まだ町の端じゃないけど、突然出てくる湖には毎度驚かされるわ」
武蔵の東側には森林公園や湖があり、閑静な場所として人気がある。
その場所に目立つ形である湖の畔に出雲が指示された家が建てられていた。その家は木造2階建ての長方形であり、1人で住むには広すぎると感じる。
「結構落ち着いた茶色の外壁の家だな。ここに1人は寂しくないかね……ていうか、ここに美桜が1人で来れるのか?」
美桜が来れるのか考えながら仁から受け取った鍵を使って家の中に入ると、綺麗に整えられている玄関が見えた。
靴などは置かれていないが下駄箱なども設置されていて、収納スペースが多数あるようである。
「玄関だけで見どころが沢山ある……仁さんはこんな家に住んでいたのか……」
周囲を見渡しながら通路を歩いて1階にあるリビングに移動をした。
そこには壁に電話がかけられており、部屋の中央に木製の小さな小机が置かれている。また、その周囲には座り心地の良さそうなマットが敷かれている。
「奥には窓もあって良い空気が入りそうだ。広いキッチンもあって美桜が喜びそうだな」
美桜と共に住んだ時のことを考えながら家の家具を見続けていた。
「2階に行くか。食器棚とか沢山家具がありすぎて目が回る……」
出雲はリビングを後にして玄関の側にある階段を上って2階に向かった。
そこには部屋が4個あり、それぞれが個室となっているようである。
「個人の部屋にできる場所かな? それぞれベットや机に棚が2個ある。前の部屋程じゃないけどそこそこ大きい部屋だな」
10畳と思える広さの部屋を見て、ここで暮らすのは最高だろうなと出雲は考える。
「家具があるから出費が少ないし、必要最低限のだけで大丈夫そうだな。風呂とかは1階かな?」
出雲が2階を後にしようとすると、階段の側に扉を見つけた。
「この扉はなんだ?」
恐る恐る扉を開けると、そこはトイレであった。
トイレは1階と2階に1つずつ作られており、トイレで争うことはないだろうと安心をする。
「トイレが2個か。これは地味に嬉しいな」
何度も頷いて良かったと言い続けていると、急に眠気が襲ってくる。
大欠伸をしながら階段を下りてリビングに置いてあるソファーに寝転がった。
「小机の前に寝転がれるソファーがあるなんて、仁さんは良い家に住んでいたんだなー」
部屋の天井を見ながら出雲は戦闘の時のことを思い出していた。
上手く戦えなかったことや死を受け入れてしまったことなど、自身で足りない部分がまだ多いと考えている。
「師匠に会って、まだ鍛えてもらいたいな……今はどこにいるんだろう?」
出雲は仁に紹介してもらった人に剣術や魔法を教わっていた。
その人は世界を旅しているようであり、国々を渡り歩いて困っている人を助けていると言っていたことを出雲は覚えている。
「困っている人ってどういう状況なんだ?」
目を瞑ってその状況を考えるも、すぐには浮かばない。
それよりも早く師匠に会って修行をしたいと思っていた。まだ弱い現実を知ってしまったので、まだ教えてもらっていない領域まで修行してもらいたいと考えている。
「いまどこにいるんだろうなー。遠い場所にいたらすぐには会えないよなぁ……」
ソファーに寝転がりながら考えていると、眠気が突然襲ってくる。
急な眠気で大欠伸をしてしまうも、戦闘での疲れであろうと理解をしていた。
「とりあえず寝るか……すぐには師匠に会えないし、仕事もあるし……そのうち仁さんに聞いて居場所を聞くしかないか」
欠伸をしながら2階のベットで寝ないでソファーで目を閉じた出雲。
既に疲れ切っており、2階に上がる体力もなかったのである。そのまま目を閉じ続けていると、いつしか寝息を立て始めてしまっていた。
特段夢を見ることもなく熟睡をしていると、どこからか美味しい匂いが漂ってくる。寝ていると美味しい匂いを感じ、出雲は静かに目を開けた。
「なんか良い匂いがする……料理の匂い……?」
ソファーから体を起こして周囲を見渡すと、そこには美桜と加耶の姿があった。
美桜は配達士の制服ではなく、膝にかかるまでの茶色のスカートを履き、Tシャツを着ていた。加耶は膝下まである青色のスカートに白色のニットを着ている。2人共とてもラフな格好をしており、湖の側では寒いのではと出雲は考えていた。
「ど、どうして2人がここにいるの?」
キッチンで料理をしている2人に対して声をかけると、美桜がやっと起きたのねと笑顔を向けてくる。
「おはようー。早く顔を洗ってきなさい。リビングを出て右側に洗面台があるから、そこに行きなさいな」
「はーい」
美桜の指示に従ってリビングを出て手洗い場に移動をした。
既に美桜は出雲よりもこの家に着いて詳しく知っているようで、的確に洗面台の場所を把握していた。
「もう俺より家のこと知ってそうなんだが……加耶さんもいるし、美桜のことを連れてきたのかな?」
美桜が1人で来れるわけがないと考えていたので、加耶と共に来たのだろうと思うことにした。
「加耶さんに案内をしてもらったのかな? だとすると寝顔を見られたかもしれないな」
顔を洗いながら寝顔を見られたと思い、少し恥ずかしいと思ってしまう。
「涎とか垂れてなかったよな? 何かあったら当分からかわれちゃうから、気を付けなきゃ……」
危ないと呟きつつ、リビングに戻っていく。
美桜と加耶は料理を終えているようで、中央にある小机に並べていた。
「遅いわよ! 料理が冷めちゃうわ!」
突然美桜に怒鳴られてしまいビクっと体を震わせてしまうが、その様子を見た加耶が言いすぎよと静止をした。
「出雲は寝起きが弱いから、ゆっくり顔を洗ったんでしょう? そんなに怒ったら可哀そうよ」
「そうね……ごめんなさいね」
「う、うん……なんか俺もごめん……」
2人の様子を見て何か怖いと感じるが、とりあえず料理を食べようと小机の前に座ることにした。
「と、とりあえず食べよ!」
「ゆっくり食べてね!」
美桜が食べてと言うと、加耶がお茶よと言ってコップを出雲の前に置いた。
「なんか2人とも怖いよ!? 俺がなにかした!?」
怖いと言いつつ美桜と加耶を見ると眩い笑顔を2人は浮かべており、その笑顔を見ると鳥肌が立ち冷や汗が背中を流れる。
楽園崩壊〜魔法配達士と失楽園の天使〜 天羽睦月 @abc2509228
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