第6話 残光

廊下にも教室にも、くすんだ光がころころと舞っていく。かつて使われていた校舎、乾いた木のにおいが鼻をくすぶる。


「うーん、音楽室はぁ、あの向こうかな?」


緊張気味になりながらうなずくと、彼女はふわりとかかとを浮かせながら「2-」と書かれた教室を見ていく。

なにもない。

記憶が正しければこの廊下の突き当りにあるはずだ。でも、近づくのは怖い。

〈音楽室〉


「きこえてる?」

「・・・・・なにも。」


蝉の鳴き声もいつの間にか聞こえない。


ガラッ、


「・・・・・」


「いないね、誰も。」


なにもなかった、呆気ないほど。当たり前のように、静まり返っているのが逆に現実だった。強いて言えば


「あっ、見てこのピアノ。鍵盤が何個かとれちゃってる。そだ、一応証拠写真っと。」


大太鼓、木琴、タンバリン。どれもどこか故障したり、年代ものだったり。

ここにはもう使われなくなった楽器が置かれているだけだったのだ。

あとはベートーヴェンとかの肖像画。


______


「結局、なんもなかったね。」


「そうだね・・・。」


廊下を戻る。歩いているとき、突然影がせまってきたので驚いてみれば彼女の顔が下から見上げている。


「な、なに・・・!?」


「え?残念とか思わないのかなって。」


いや、それはむしろ君のほうじゃ、と思った。見ればスマホはカメラモードのままだ。


「別に。もう、分かったからいいよ。誰もいなかったでしょ。」


結局、誰もいなかった。きこえていたのに、蓋を開けてみれば空っぽだった。鍵盤はあるのに音を打つものがない。それだけのことだ。そうか、それだけだったのだ。


「誰もいないなら幽霊ってことじゃないの?」


「なんでそうオカルトと結び付けたがるの・・・」


「まぁまぁ、あとで写真でも見よう。なんか映ってるかもしれないし!」


「え、いや、僕はいいよ・・


「遠慮すんなって。


スマホを押し付け押し返しながらまだ明るい日差しが残る、出口へ出ようとしたときだった。



ポーン



「・・・え?」


彼女も止まっている。まさか、


「いまの、なに、音?」


その音は彼女にもきこえていた。




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