第2話 冷たい風と夕焼けのそばで
シャワシャワシャワ・・・
夕暮れにちかい校庭。噴水の光がちらちらと瞼に入ってくる。
遠くから野球の声がきこえてくる。それと、ピアノも。
「なに読んでるの?」
初めて声をかけられた。
「え」
戸惑う様子に相手はかまわず、
「それ、シェークスピアのハムレットだよね。」
顔を上げれば自分より小柄な女の子がいる。
茶髪のショートで目がリスみたいだ。鞄をもったまま手元からこちらに視線を移す。名札には宮部 蒼(みやべ あおい)とある。 同じ1年だった。
「・・・うん。」
なんだかいたたまれなくなってうつむく。
「あ、急にごめんね?えーと、」
「高瀬 はる。」
「高瀬くん? よかった、やっぱ同級じゃん。宮部 蒼。 そういえばいつもここで読んでるなって思って。」
「 うん」
そうか、見られていたのか。誰も気にしないと思っていたのに。
沈黙
まずい、
なにか言わなきゃ。
「これ、読んだことあるの?」
「ん-、ない!」
そんなにきっぱり
彼女は苦笑いした。
「本ってあんまり好きじゃないからさ!いや、文学を否定するわけじゃないんだけど、文字ばっかりって辞書みたいで飽きちゃう。 わたしそれ、漫画でみかけたんだよね。シンミョーな挿絵だなって思って。それっきり。」
「ああ、そういうこと。」
「ちょっと、今納得したでしょ!」
しまったと思ったが、本人も笑っているので大丈夫なんだろう
「でもこんなところで読書だなんて、なんかロマンチックだよね。わざと?」
わざとじゃないといえば嘘になってしまう
「こういうのってさ、昭和の文豪がやってそうよね。君、文学少年って感じじゃん。」
「いや、」
本当のことを言おうか・・・
「うん、落ち着くからいるんだ。」
中途半端な返答をしてしまった。
「確かにねー」
辺りを見回す。
「木陰で噴水も流れてるし。ほどよく部活の声も聞こえてきて、風流って感じだよね。」
「ピアノもきこえるよ・・・?」
思わず言葉が漏れたが、
瞬間、彼女の顔から笑みが失せた。
「え、どこから?」
「どこって・・・」
あれ、
「あそこだよ、あの二階。」
なんだか表情が険しくなった気がする。
「・・・ん、なにいってるの・・・?、あそこはもう使われてないよ?」
え、
「あの校舎、一階の半分は実験で使われてるみたいだけど、生徒が減っちゃってクラスがいらなくなったのよね。だから普段は物置で閉鎖してるんだって、うちの担任に聞いたんだけど。」
風が冷たくなった気がした。
「帰ろっか! って違う違う、ほんとにそういうノリで、今のはなんでもなかったことに・・・しといて?っていっといてなんだけどさ、今、どんな音楽が聞こえてるの?」
「今日は、あれ・・・? 」
「ん?」
「きこえない。」
まだ、なっているはずのピアノがいつのまにか噴水とセミだけになっていた。
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