第3話 セミの雑音(ノイズ)と君と約束
あの日以来、宮部さんが僕をたずねてくる。
わかったのは彼女は図書部の”ユーレイ部員”だということ。
もともと陸上部に入っていたらしいが、途中から飽きてしまって春に止めたらしい。
クラスも離れているし、あまり会わないけれど、今度は彼女がここにいるようになった。
あの日以来、ピアノの音がきこえない。
「どんな曲だったの?」
わからない。でも確かにそれは流れていた。僕の時間のなかにいた。
風のように、海のように、この夕暮れのように・・・
「綺麗な曲だったよ。」
それくらいしかいえない。
「・・・ねえ、行ってみよっか?」
「ええ・・?」
正直、終わってしまえばもうここで本を読んでいるふりをすることもなくなる。
でも、やはり寂しい。
学校とかいう場所で唯一の場所をなくしてしまった、空虚が抜けきらない。
だって、君がいたから僕はここにいたのに。
でも・・・
原因を探る、なんていうのはどうも気がすすまない。
なにかを壊してしまう気がして。
「あのさ、友達はいいの?」
聞いてみる。
彼女ならいくらでもいるだろうに。僕みたいな”変わり者”に構ってたら、逆に彼女は疑われてしまう、傷つけてしまう。
「いいよ。あたしがいたいからいるんだもん。嫌だったら言ってね?」
「嫌じゃないけど・・・」
校庭の影が深くなり、少し冷たさを帯びてきた。
遠い生徒の声。
桜がザァーとゆれる。セミのにぎやかなざわめき。 と僕ら。
人が一人ここにいるだけで、ガラッと変わってしまうのか、夏は。
「じゃあ行ってみない?あの校舎。確か裏道に錆びた閂がかかってたのよね。」
急にワクワクした様子で拳をにぎりしめる宮部さん。
ん?
「あのさ、友達も呼んでいい?」
「・・・え?」
「あたしそういうの好きな子知ってるからさ、連絡とって、一緒に見てみようよ!・・・ダメかな?」
「いや、」
それよりもなにも校則違反じゃないか。先生に見つかったらどんな罰があるか・・・
「大丈夫大丈夫!」
察したかのように励ます。
「中学校の時にもね、肝試ししたことあるから!」
いや、ここ高校ですけど
「じゃあ決まり!日時は追って伝えに来るから、待っててね!」
止める暇もなく駆けていってしまった。
汗がじっとりと首筋を伝うのがわかる。
間違いない。
彼女は不良だ。
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