第7話 訪問者

「明日は駄目だから、次の日!絶対ね!」


それから数日後。宮部さんは何度もそう念押しして、部活用のお菓子を片手に行ってしまった。幽霊部員といっていたのに、定期的に顔を出さないと幽霊にすらなれない、という言い訳がなんとも彼女らしい。

結局、撮ったカメラにはこれといったモノは映っていなかった。それはそれでよかったと思う。本当にその中に得体のしれないモノがいたら、僕はもう誘いをとっくに断っていただろうから。


明日になる。昨日から定期試験のための試験期間に入ったので、部活は今はない。ぞろぞろと校門へ出ていく生徒を傍目に僕は例の噴水広場で一人佇んでいる。

放課後。青々とした木々の下で約束の場所で落ち合う。やっぱり片手にはスマホ。


「おまたせ!行こうか!」


「・・・うん。」


色とりどりの傘から赤いそれがひらりと浮いた。今日は雨が降っている。

______


湿気た木のにおいが廊下に漂う。


「まさか聞こえるとは思ってなかったけど。」


傘からポタポタと雫をたらしつつスマホをこっちに向けてくる。


「や、やめて。」


「えーもうすでに”はじまってる”って気がしない?」


「いや、背後にいるって・・・そんなの恐怖以外のナニモノでもないよ・・・、」


いたずらっぽく口の端を上げて笑う。


「ふふふ、もしなんかいたら教えてあげる。」


「いらない。」


それに。と思う。


あんなに綺麗な音色を奏でるモノは、おどろおどろしさとは無縁な気がするし。

曇ったガラス窓、〈音楽室〉。

ただ、今日はいつもとは違った。

足音を近づけていった瞬間、ガタン!と部屋から音がきこえたからだ。


「「!」」


思わず顔を合わせる。次の瞬間思わず声がヒソヒソ声になっていた。


「(誰かいるんじゃない?)」


「(な、何か落ちたんじゃない、なにか、物とか・・・。)」


「(地震もないのに!?ありないって。)」


老朽化のせいで、なにかが落ちた、例えば肖像画とか。そういうことにしてやっぱり帰ろう、と言おうとしたが、ドアに手がかかるのを見たので慌てて制止する。


「(入るの?!)」


突如怖ろしい想像が頭を巡る。


「(不審者!不審者だったら・・・!)」


「(!・・・・・・・・でも何も起こんないし、案外隠れてたりして・・・。いざって時はこの番号(110)つきつければいいよ。)」


「(本気?!相手が刃物でも持ってたら!)」


「(こういうときのためのスマホ(通報)でしょ!それにさっきから物音がしただけでやっぱりなにもアクションがないじゃん!ちょっとのぞくくらい)」


「(ちょ、まっ、!)」


ガラッ!といささか乱暴にドアが開かれる。

これで本当に「不審者」だったなら、僕はこの先一生彼女を恨むはめになっていたと思う。

果たしてそれは、前触れもなく、というか主にこちらのアブノーマルな行動で現れることとなったのだった。


「「・・・・・」」


長い黒髪、同じ高校の、青いリボンのついたセーラー服。凛とした瞳、人形のような白い顔。高い身長・・・。

つまり美人だった。無表情でこっちを見ている。

二人して思わず固まる。美貌もそうだが、なぜこんなところに?という疑問と暴かれた正体へのあっけなさのために。


「あ、」


何か言おうとして、スマホが落ちたのだろう。


「あなたは・・・?」


彼女は言った。


「ピアノの音がきこえたから。」


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