第11話 冷たいBGM

「・・・オーブだよ、これ!」


「ま、まさか。」


冷や汗が伝い、いつの間にかジュースを固く握りしめていたことに気づいてそっと降ろす。スマホの画面には、廊下と僕。場所は教室の札から2階とわかる。夕暮れが射しこんでいた。僕の背後にソレは霞みのごとく、おぼろげながら浮いている。

紙の写真なら運んでいるうちに傷ついたとか、適当な言い訳ができるだろう。


傍目に見れば男女が身を寄せ合って(とはいっても向かい合いなのでお互いに頭を近づけている状態になるが)仲良くしているような光景になるが、中身を見れば全くのギャップもいいところだ。本当に


「どうしよう。」


まさか、足が痛んだのもそのせいでは?と言いたくなる。いや、いってしまえば、フラグになるかも。口を開いてもぱくぱくと動かすことしかできない。


「見たな!ってことにはならないと思うけどなあ~。」


呑気な態度とは裏腹に興奮しているのか目が笑っていない。


「赤くないもん、これ。赤くないってことはいわゆる「警戒」されてないってことらしいし?あるのは一つだけだし。」


「拡大しなくていいから・・・!」


すっかり冷めてしまったハンバーグの一かけらをがっつき、グイッと水を飲む。しまった、置いて行かれる。


「・・・・・。」


「んな気にすんなって。明日行けば何かわかるでしょ。」


「明日までに僕は生きてられるかな。」


もう、早速自信がなくなってきた。だからダメなんだ、僕は。どうしたって風に柳にはなれない。


「ふーむ、一緒に帰ってはあげられるけど・・・そんなこと言われちゃこっちまで夢見が悪くなるじゃん!・・・いやほらその、」


場違いに明るく、そして歯切れが悪いところを見ればうっかり興味本位で写真を撮ってしまったことに、罪悪感があるらしい。


「気にしないで。大丈夫。」


「あ、さすがに、悪かったわ。こっちが発端だし。」


「うん。帰ろう。」


「そ、そか、」


雰囲気が台無しになってしまう。冷たいBGMが流れてくる。俯いてしまう。


「あっ、」


宮部さんがなにか言った。


「カナタさん?」


カウンターから振り返る。窓の外にはまだ制服姿のカナタさんが見えた。

しかし彼女はこちらに気づくことなく、街の道筋に沿って歩いて行ってしまう。


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