第13話 ヒュド子、再び
「ウッ…ゴホッ……ンン。」
おっ、ようやくエルフちゃんのお目覚めだ。顔色からは見違えるほど回復してるのが見て取れるけど、まだ若干苦しそうにも見える。
ゴメンね、酸素ボンベや缶なんかがあったら良かったんだけど…たぶん存在すら無いのよねぇ、この世界には。私が持ち合わせてる以前の問題よね。いつか魔法を創造できるようになったら、酸素を吸入する方法を検証してみるよ。
彼女は完全に瞼(まぶた)は開いたものの、視界がぼやけてるのか良く見えてない様子。それに酸欠状態だったから頭も『ボー。』っとしているはず。
私は即座に、
「お嬢ちゃん大丈夫?まだ苦しいトコとか無い?」
と近所のオバちゃんムーブを見せると、私の優しい問いかけに俯いてた顔を上げながら、
「大丈夫です。お気遣いありがと―――ヒャァァァアアア!」
思いっきり悲鳴をあげる。あげるわな、そら。『キ』じゃなくて『ヒ』な所がちょっとお上品。反応に関してはまぁ想像通りですわ。
目覚めていきなりデッカイ毒蛇がひしめき合ったバケモンとイエティみたいな謎の白ゴリラに囲まれてたら驚愕もんですよ、当然。存じ上げてた。
「ゴメンねぇ。そりゃやっぱ怖いよね。私たちはアナタがちょーーーっと危ない状態だったから手助けしただけ。それじゃもう行くね。ちなみに出口は―――。」
ガタガタと小刻みに震えている彼女を気遣いつつ、振り向いてゴリ爺に指示を仰ぐ。お爺はお人よしにも程があると親の顔より見た呆れ顔を見せつつ、無言で出口の方向を腕組みしたまま指し示す。ヤダ、シブい。
「あっちだって。良かったね。これで迷わず森を出られるよ。帰りがけにまた体調崩さないよう気を付けてね。」
そそくさとその場を立ち去ろうとする私たちへ意を決したかのように、
「ちょ、ちょっと待って下さい。」
と、声を掛けてくる。まぁ、そうだよね。なんの理由(わけ)もなく、こんな森を彷徨(さまよ)って行き倒れてないよね。
もし追われてたりしたんなら出口方面は追手に固められてる可能性があるし、そうで無くてもヤバい生き物がわんさかいそうなこの森で一人になるのはリスクが高そうだ。
「私は『リューン エアイン アラ ナ クロヴェリエル』と申します。」
粛々(しゅくしゅく)と彼女が名乗った途端、ゴリ爺の顔が一気に険しくなる。あっ…ふーん。やっぱ高貴な生まれの”厄介な”相手なんだろうなぁ。これで民族規模のトラブル確定かぁ。まぁ私としては助けると決めて性根据えてやった結果だから、彼女が望むならトコトン付き合うつもりだけどね。
名乗り終えるとお爺の方を向き、おそるおそる問いかける。
「恐れながら貴方様はこのダンジョンを統べられていらっしゃられるハヌマーン様ではございませんでしょうか。」
そう、このお方が……ダ、ダ、ダ、ダンジョン!?ココ、ダンジョン!?『ただの森じゃねぇだろなー。』とは思ってたけど聖域(サンクチュアリ)とかじゃなくダンジョンかよっ!って事はじっちゃんがダンジョンマスター?管理者ってそうゆう事かぁ!!
しかも、ハヌマーンだとぅ!?たしか”猿神”のことだよね?ゴリ爺はゴリラだよ?ゴリでしょ!どっからどう見てもっ!山【マウンテン】白【ホワイトバック】ゴリラじゃろがいっ!!あたしゃ認めないよっ!?
すると唐突に口を開く爺。静かだが強い口調で、
「お前は礼も言えんのか。こやつがどれだけ心血注いでお前を今際の際から連れ戻したと思っとる。」
ゲェーッ!お爺様が超絶正論で怒っていらっしゃった!
その前に私自身がゴリとかゴリラとか散々言って調子に乗ってましたゴメンナサイ。もっと自重できるよう心掛けます。
「ヒッ…申し訳御座いません…。礼節に欠いた言動をとってしまいました……。命を救って頂き誠に有難う御座いました。」
『ヒッ』って言っちゃってるじゃん。怯えちゃってるじゃん。ガチガチに硬くなって、体の震えも酷くなって、過呼吸で呼吸困難じゃん。
「ワシじゃなくてこやつに言―――。」
「まぁまぁお爺ちゃん。この子まだ若そうだし箱入りそうだからさ。自分の思った事優先で先走っちゃったんだよ、きっと。若気の至りだよ。彼女さっきの酸欠状態の時より顔が真っ青になってるよ。私は特段なんとも思ってないから、許してあげて。」
「そうか。お前がエエならもうこれ以上は何も言わん。」
ここで『ワシはお前のために』とか言わない所がいい男だよ爺ちゃん。
逆にさっきの自分の言動が恥ずかしいよ…。
「ところでエルフの王女様が供も付けず森にいったい何用じゃ。」
そりゃ箱入りだわ。お姫さまだもん。アレ?でもこの子自分が王女だって名乗ったっけ?
「お爺ちゃん何で彼女が王女って解ったの?ドレスに紋章でも入ってた?」
「さっき名乗っとったじゃろ。あれはエルフ語で『東森王(とうりんおう)の幸葉(さちば)の娘』と言う意味じゃ。王の娘は王女じゃろ。」
「ふーん。名前にちゃんと自分の家系とかが入ってるパターンね。あ、名前で思いしたけど、私たちの方こそ自己紹介してなくない?」
「別にええじゃろ。ワシらみたいな存在は見ればわかるし。」
おーい。私と最初に会った時、『名前はまず自分から』みたいなこと言ってなかったかぁ?あぁん?
「私の名前は”ヒューイ”。そういえばお爺ちゃんは…。」
「アンジャネーヤじゃ。」
「へぇ。ちゃんと名前あったんだ。」
「本来はハヌマーン自体が名前じゃが、和えて言うならの別名みたいなもんじゃ。」
じゃあ、ホントはゴリ爺じゃなくてアン爺だったのか。まぁ、ハヌ爺でもいいんだろうけど、語感的にアン爺が上かな?…って、なんかお姫が訝(いぶか)し気な表情で私を見てる。どったの?
「ちょっと失礼かとは思うんですが…、」
失礼前提ってアンタ。ヤな予感すんだけど。
「『ヒュド子』がカワイイと思います!」
ダメよ。それはホントに失礼よ。さっき自分はクロヴェ某って超洋風の名前を名乗ってたじゃん。何でスーパーノーマル和風のヒュド子やねん。意味わからんわ。
「イェーーー!デェーーーン!ホラ『子』ラロッ!!。」
さっきまで険しい顔してたろアンタッ!シブさどこいったんや!興奮し過ぎてキャラ変わってんじゃねぇかっ!!完全にサッカー解説者のセ〇ジオ越後が乗り移っちゃってるじゃん!
「『ヒューイ』って何かイメージと合って無いって言うか、呼びにくいっていうか…私は『ヒュド子さん』って呼びます。」
なに勝手に確定してくれてんねん!?これだから箱入りは!
「ワシも『ヒュド子』って呼ぶぞい!」
ジジイ自重しろっ!ニヤニヤしやがって!!いい年こいてハシャいでんじゃねーよっ!
あー、もう解った。コレ私の意志かんけーねーわ。いくら私が”ヒューイ”を主張しても周りが誰一人呼ばないっていう、完全に外堀埋められてくタイプのヤツや…。
チッキショーッ!
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