第14話 世界樹
「あー、もう何でもいいから…。で、何で姫ちゃんは森に来たの?」
これ以上、この二人にとやかく言っても始まらない。それより話を進めた方が有意義だろう。
「あっ、そうでした。」
忘れとったんかいっ!お姫の一番肝心なところやぞ!
『ボーっと生きてんじゃねーよ!』ってヒュド子ちゃんに叱られますよ?マジで!ポヤッとしてんなー。さすが箱入り姫ってところか。
「私はフォルトゥネクロルの叡智であらせられるハヌマーン様にお知恵をお借りしたく森へ参りました。」
「断る。」
返答はや。取り付く島もないやんゴリ爺。あ、アン爺か。容赦ないな。
お姫の顔がまたまた青ざめる。不憫(ふびん)だねぇ。
フォルトゥネクロルについて聞いてみたいけど、邪魔すんのもアレだし黙っとこ。
「お願いします!どうかっ!お話だけでも聞いて下さい!!我々一族の興廃(こうはい)が掛かっているのです!」
なるほど、興廃ってのは確か『繫栄か滅亡か』って意味だったよね。お爺の判断一つでお姫一族の命運が左右されるってことか。
つか、よく今までこんな大事なこと忘れて、アタシの名前に口出しできてたなっ!メッチャ切羽詰まった状況じゃんこれ!余裕あんなお姫!
『はぁぁぁ―――。』と腰に手を当て深い溜め息をつきつつ、肩を落として俯(うつむ)きながら、目の端で私を詰(なじ)るように見る爺。
はいはい、私のせいですよ全部。ごめんちゃい。
「ワシがこの森の管理者という立場であり、お前たち世俗の者に関わらない事は周知の事実であろう。何故(なにゆえ)ここにきた。助けを求めるなら鬼どもや鳥どもでも良かったであろうが。」
鬼ってのは何となくオーガ系の種族って解る。いつもならテンション爆上がりなんだが、それ以上に”鳥”ってワードが引っ掛かる。要はハーピーみたいな種族がいるってことだろうか。
イタさ爆発で『おじいちゃん、鳥ってなーに?』と切り出しても良かったが、それではこの緊迫した雰囲気を醸し出してる二人に申し訳ない。
私は空気を読めるヒュドラだ。
「エルフ国の内政問題ですので他国の援助は期待できません。王族は全て投獄され、明日にも処刑されかねないです。父たちが捕まる前に森の猿神へ助力を請うよう送り出してくれました。もう私たちにはハヌマーン様だけが頼りなんです。」
あー。アン爺から不穏な何かを感じるわ。ビンビンに。私が猿神の怒りを買ってコロコロされそうなんですが。
「答えになっとらんのぉ。何故ワシなんじゃ?王家の問題とあらば近隣諸国も他人事ではなかろう。外交も難しくなろうし。」
「他国に協力を要請する伝手(つて)がない事もあるんですが、なにより他国の者にも解決できる問題とは思いません…。神力を持つ方々のお力添えが必要なんです。何故なら―――。」
グッと唇を噛みしめる姫。押し潰されたような声を絞り出す。
「世界樹が枯れ始めました。」
「なんじゃとっ!?」
アン爺の顔色が一気に変わる。めずらしく余裕のない表情だ。
それもそのはず世界樹が私の知識にあるユグドラシルなら、この樹こそ世界の器そのもの。枯れれば世界が崩壊すると言われる代物で、国家レベルなんて軽く超えた危機的状況だ。
「貴様らは樹に選ばれし管理者であろうがっ!?樹を枯らすなど前代未聞じゃ!こんのバカモン共がっ!!」
「ヒッ…!」
怒りで我を忘れてドタドタと暴れ始めるアン爺の腕に何とか首を巻き付けて抑える。絶句して動けない姫ちゃんから少しでも引き離さないと危ない。
ちょっとずつ後退したいがアン爺の力ハンパねぇ!やっぱゴリラでしょホントは!!
「ちょっと落ち着いてアン爺!暴れた所で何にも解決しないでしょ?それより原因とか探ってく方が先決だって!」
私の言葉に少し腕の力が和らぐ
「ハーイ、深呼吸してー。スーハ―ですよー。お爺ちゃん。」
「だれがお爺ちゃんじゃっ!」
血の気が下がったアン爺が腕を振って私の首を払いのける。平静だと簡単に振り解かれちゃうんだ。やっぱゴリ爺じゃん。
「で、何が切っ掛けなんじゃ。世界樹が枯れ始めたのは。」
何事も無かったかのように冷静に問う爺。私はジト目でゴリラを睨む。
一方お姫はまだ放心状態で意識が返って来ていない。
「おいっ。聞いとろぉが。」
「は、はいぃ!」
相変わらずお姫に厳しい。もう完全に恐縮しちゃってる。
「始めの異変は世界樹の周囲から異臭がするとの報告があり、その調査に向かったものから目の異常が訴えられました。」
刺激臭に目の痛みの訴え…世界樹を枯らすほどの何かと相まって、これまでで一番嫌な予感がする。
「世界樹に近づくことすら困難な事態を重く見た王が、徹底的に原因を究明するよう元老院に命じて協議された結果、イルシナバラニエルの泉から聖水を運び、世界樹に撒いて浄化を図ろうとなりました。」
「ほう、効果ありそうな策じゃな。」
「ですが、聖水の力を以(も)ってしても状況は酷くなるばかりで終(つい)には枯れ始めました。途端に元老院はその責が全て王族にあるとして糾弾を始め、軍部や民衆も扇動して王家に列なるものを捕らえました。」
「一気にきな臭くなりおったのぉ。」
「元老院は由緒正しい王家の血で世界樹を清めれば穢れも浄化されると布告し、王族全員に処刑宣告がなされています。」
「アホどもが。そんなもんで世界樹が治る訳がないじゃろが。穢れる一方じゃわい。」
「我ら一族の命運をかけて、藁(わら)にもすがる思いで私は森へ赴く事しかできませんでした。」
「なるほどのぉ…どうした、お主。黙りこくって。何か解ったんか?」
そう、今度は私が険しい表情をする番だった。
お姫の話はある可能性を示している。
私の中のシバサブロウ先生が全力で警鐘を鳴らしていた。
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