第15話 守護神になってこい。
「その聖水…毒ですよ。」
「えっ。」
唖然とした表情を見せる姫。
「聖水は穢れを浄化するんでしょ?おそらく腐敗を取り除いて回復させる効果があるんじゃない?」
「はい。」
コクコクと頷く。拙い仕草がカワイイ。
「それなのに刺激臭が強くなってる訳ないですよ。その時点で臭気は消えるはずです。恐らくは聖水が世界樹に撒かれる段階で毒にすり替えられてます。枯葉剤に。」
「なんじゃ?その枯葉剤とかゆうヤツは。」
「その名の通り植物を枯らす液剤ですが、戦争の兵器にも使われるほどの毒…ダイオキシンが含まれてます。」
「そのダイオなんとかいう毒は世界樹を枯らすほどのモンなのか?」
「私の知識の中でも最悪の毒の一つですからね。世界樹を腐食させてもおかしくはないです。当然、それほどの強力な毒ですから生物にも深刻な影響を及ぼします。」
流れのまま、もしエルフが中毒になったらの話を続ける。
「エルフが中毒になって私の知識通りの症状が起きるなら、王族や世界樹を抜きにして危機的状況ですよ。この毒の恐ろしい所は、影響を及ぼす範囲が広いだけじゃなく、体内に幾つもの病気を引き起こすうえ、それが体にずっと残り続けるんです。それこそ後世まで。」
「まさか毒が引き継がれるんか!?」
「残念ながら。子供により深刻な症状が出てしまいます。その…、知能や身体に重度の障害が…。」
「グゥゥ、ウ、ウ―――…。」
私が言い終える前に、堰(せき)を切ったかのように号泣しだす姫ちゃん。綺麗な顔がグチャグチャになってる。
「なんでそんな事するんですかっ!?ヒドイッ!」
誰にともなしの訴えが森に響く。短くて長く感じる重苦しい沈黙が漂う―――。
「そうですねぇ…。毒を撒くよう仕向けてる奴がなに考えてる事はよく分からないけど、計画した首謀者は元老院じゃないんじゃないかな。」
「ほぅ。なんでそう思う?」
「だって計画した張本人が、世界樹を枯らすほどの毒について自分たちへの影響を考えないなんで不自然でしょ。流石に自分たちが被害者側に回る可能性があるなんてちょっと考えれば分かるはずです。だったら彼らが疑問を持たないよう何者かに手のひらで転がされてるか…」
「洗脳されてるかって訳か。」
「そうゆう事です。まぁ、操られてるのは間違いないですね。」
私が話している間、姫は聞いているかも分からない様子でベソをかき続けている。とても王族としてアン爺に助けを求めにきた態度には見えない。箱入りでもそりゃないよ。
「あのねぇ、お姫ちゃん。自分を慰めるために泣きに来たんだったら今すぐ帰りなよ。あなたは訳も分からず降りかかる不幸をゴネるために命がけでここまで来たの?森の主に力添えをお願いしに来た貴方には、悲劇に浸るよりやるべき事があると思うんだけど。」
少しトゲのある言い方だが、陰気を拭(ぬぐ)うにはこれ位のほうが良いだろう。それで恨まれるならしかたない。
「フグッ。ゴホッ。ごめんなさい。取り乱してしまって…。」
気丈に振る舞おうとする素振(そぶ)りを見せる。オッケーそれでいいよ。そうあろうとする姿勢がコレからに繋がるんだよ。
「じゃあ話を戻すと、今のままじゃ枯葉剤中毒者まで王族のせいにされて処刑を早められかねないね。早急に世界樹の毒を抜くか、元老院と軍部・民衆をどうにかするかしないといけないのね。」
「でも首謀者を叩かないと毒は撒かれ続けるのでは?」
「それなら元老院をわざわざ傀儡(かいらい)にしてないでしょ。直接手が下せないから回りくどい策をとってるんだと思う。それに首謀者探しに時間がかかって処刑が実行されたら元も子もなくない?」
「それはそうですが…。」
「世界を壊そうと目論む奴か奴らだから、おそらく入念に下準備してると思う。簡単に尻尾をだすなら苦労してないんじゃない?王族直属の組織も手をこまねいていたんじゃないだろうし。」
「なぜ組織の事をご存じなのですか!?」
驚嘆の表情を見せつつ、尋ねてくる。
「いや、組織持ってない王族の方がどうかしてるし。君主制で内部勢力分散してるのに息のかかった直属いないとか、『どうぞ寝首かいて下さい。』って言ってるようなもんでしょ。」
「はぁー。ヒュド子”ちゃん”は博学なんですねぇ。」
おい、”ちゃん”て。ヒュド子はまだしも『ちゃん付けOK』にした覚え無いんですけど。っていうか、さっきまで泣きじゃくってたのに切り替え速すぎない?私が促したんだけどさ。あぁ、話がどんどん脱線していく。
「とにかく早急に今後についての対策を…。」
「問題ないじゃろっ!」
先ほどとは逆に今まで黙って聞いてた爺が大きな声で言い放つ。どったの突然。
「ではご助力下さる…。」
「いやいや、ワシじゃない。」
詰め寄るお姫を手で制し、爺は斜め後方を向く。
「世界樹もエルフも同時に救う唯一の解決策は見えておるじゃないか。全ての要因は”毒”が元なんじゃろ?のう、『ヒュド子』や。」
ジジイがニヤニヤしながら面倒事を押し付けたそうにコチラを見ている。ヒュドラはあきらめた。
「はいはい。最初からそのつもりでしたからね。何処へでも行って何でもやりますよアタシャ。」
「じゃ、ワシは帰って茶でもシバくかの。」
コラッ!もう人ごとになってんじゃん!ズッチィぞ爺!ねぇ、もうちょっと一緒に行動しよ?まだ私の監視が必要でしょ??
「ヒュド子や。お前さんワシの代わりにちょっと行って、エルフの国で守護神になってこい。いくらでも譲ってやる。これで勝手に押し付けられとった肩の荷が降りるわい。」
神ポジをそんな叩き売りみたいに…っていうか、エルフの守護神がヒュドラって…。そりゃ無いよ。自分でも『似合う』って思わないもーん。
絶対に妖精さんとかの方があってるって。妖精さんの女王とかがね。
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