第10話 ”大人”じゃない
「エルフキタ――――――――――――――――――ッ!!。」
ファンタジー界のアイドルッ!
キングオブ亜人種ッ!
エンカウントしたい種族№1ッ!!
「ウォッホッホー。エルフだ―!カワイイだー!!」
興奮してエルフの舞をドタドタ踊る私。この際ゴリ爺のジト目は気にしない。
「お楽しみのところ悪いがの。こやつ死にそうじゃぞ。」
なぬっ!?絶命しそうとなっ?そいつぁてぇへんだ!あってはならぬ!あってはならぬよ!そんなこと!!
パッと見は派手な外傷などないが、血色が悪く呼吸困難に陥っている。うん、毒状態ですね。こりゃ。
「あばばば。どうしよ。どうにかしないと。」
もちつけ、たわし。”人”とゆー字を…書けねーじゃねぇかっ!つかもう人じゃねーしっ!!
セルフツッコミを決めた所で少し正気を取り戻す。その様子をただ傍観していたゴリ爺が声を掛けてくる。
「お前さん助けるんか?」
酷く冷静にバリトンの渋い声で聞いてくる。
「はえっ!?お爺ちゃん!さっきゴハン…じゃない、当然じゃないですか!!死にかけてるんですよ?あのエルフがですよ??」
『私たちなら何とかしてあげられるかもしれないのにっ!』と心の中で続ける。
この世界で無条件の人助けなど馬鹿のする事だってか!?上等だよっ!それなら私は馬鹿でいいっ!!
『助ける前に助けないこと考えるバカいるかよっ!!』そう心の中で燃える闘魂が吠えている。
「いや、どのエルフかは知らんがな。お主、助けるからには今後いろいろと面倒事がついて回るぞい。恐らくは。」
結構。けっこー。コケコッコー。いつでも来い!コノヤローっ!!この子のためなら全部、丸っと、飲み込んでやるよっ!!
「端(はな)から覚悟の上よ、お爺ちゃん!そんな事より毒に効きそうな物とか持ってないんですか!!」
切羽詰まった表情で即答する私に、もう何度もみた顔で溜め息交じりに答える。
「たぶん持っとるぞい。」
うっそ!持ってるぅー!?持ってました何で?なら最初から早く出してよゴリ爺っ!でもアリガトなすっ!!ダメ元で聞いてヨカッター!
とにかく『これで助けてあげられる…。』と安堵したのも束の間。
「とりあえず、いつも持ってる毒に効く薬草…あっ」
”あっ”?”あっ”って言ったか今?
「ない…入れ忘れてしもぉた。すまんの。」
ぬなぁ!忘れただとぅ!!現場は一刻を争うのにっ!会議室で起きてんじゃないんだぞっ!
森へ出かける前に持ち物確認ぐらいしてよ!『ハンカチ、ティッシュ、毒消し草持ちましたか?』って確認してくれる息子嫁はおらんのかっ!?
一気にテンパりそうになる気持ちをツッコミかまして抑えつつ次なる手段を考える。待てよ…お爺『森の管理者』って事は毒消し草の生えてる場所特定できてんじゃない?
「もしかしてお爺ちゃん、毒消し草の場所わかる?」
「解るぞい。」
よっしゃ。ゴリ爺って今回の件は受け身だから積極的に聞いていかないとね!
「じゃあ、急いで『どこでも通路』で採ってきてもら…。」
「お断りじゃ。」
ナンデー?ゴリジィ、ナンデー?
「いま持ってるもの渡すぐらいなら協力してもエエがの。わざわざ取ってくるまですると、もう『生き死に』に過干渉したも同然じゃ。森の”管理者”としては失格。それを考え無しにやるモンは”支配者”じゃ。お前さんがどうしても助けたいなら、お主で何とかする事じゃな。」
ご尤(もっと)もな言い回しで政治家ムーブしてくれんじゃない!お爺がこんなにヘタレだったとはっ!何が管理者だよ!風上にも置けないねっ!!管理責任問われそうだからビビってんのかっ!!
無意識にプリプリ怒りながら活発に動くカメさん達を横目で追いながらゴリ爺は続ける。
「まぁ、慌てるな。まだ策はある。」
あるんかいっ!もう慌てる時間ですよっ!そんな悠長にしてる段じゃないんだってっ!!
「たしか、解毒魔法が載った手帳もあったんじゃが…」
”じゃが”って言っちゃったよコノ爺さん。旗が立った予感しかしないよ。
「そいつも忘れちゃったんじゃ。」
ペロッと舌をだし、グーで頭を『コツンッ。』っとして見せる。
おいっ、今まで緊迫感どこいった!!可愛げ出してる場合じゃないでしょが!
「手は八方塞がりじゃ。それでも助けるのか?」
急にまた爺の声は低く重くなり、空気が張り詰める。
もしかして全部予定調和だったのかもしれない。時間稼ぎ…私が正常に判断できるまでの”間”をとったのかも。
その場の勢いだけじゃない真偽の『覚悟』を問われてる。
うん、言ってる意味は解るよゴリ爺。この子への義理なんて何も無いけど、それでも…
「助けます。私が助けたいから。」
決意は揺るがない。真っすぐ、訴えかけるように爺の目を見つめる。
命を救う『覚悟』と無責任な『死』を天秤に掛けられて、『死』をとるような私は腐った”大人”じゃない。
これだけ言っても聴かない私にさすがのゴリ爺も折れたようだ。
「ハァッ。頑固じゃのぉ、お主。仕方ない。そんなお前さんに一つ助言をくれてやろうかの。これが管理者としての精一杯じゃ。」
短い間柄だが、もう見慣れてしまった呆れ顔でいう。
「鍵はお主自身じゃ。お前さんは何者じゃ?」
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