第9話 どこでもツウロ~!

 とりあえず話題を変えて誤魔化そう。


「そういえば、森なのに歩きやすいですね。まるで木々が避けて道を作ってくれてるように見えるんですが…。」


「そりゃ、そうじゃ。ワシ、この森の管理者じゃもん。お前さんも自分より上のモンが来たら道を空けるじゃろ?」


 さも当然と気軽に言ってくれるな、この爺さん。果ての見えない広大な森の管理者ってけっこう凄いんじゃないのそれ?大企業の会長的な立場かよっ。羨(うらや)ましいよ心底。

 しばらく歩くと急激に体が重くなってくる。おそらく数十分ほどしか経っていないのに。


 「ちょ、ちょっと休憩お願いします。脚が棒になってきてて…。」


 「なんじゃぁ?もうヘバったんか!?歩きだしたばっかりじゃろ。ぜんぜん体力無いのぉ、お主。」


 とか何とか言いつつも、しっかり立ち止まってくれるゴリ爺。私はその場でへたり込み、すぐさま疲労回復を図る。

 ゴリ爺の言う通り私は圧倒的に疲れやすい。穴を登ったときも、今も。攻撃無効などのタフさに対して不自然なほどスタミナがないのだ。明らかにバランスがおかしい。


 「体が大きいから消費も比例してるんですかね。」


 少し自嘲気味に笑う。太っちょだからカロリーをすぐに使い切るとか?それなら空腹になるはずでしょ。でもお腹が空いた感じはない。

 使える体力をほんの僅かに制限されてるとか、通常あり得ないペースで体力削られてるとか?得体のしれない”何か”の存在を感じざるを得ない。


 「やな感じ。」


 「自分を愚痴ってもしょうがないじゃろ。丈夫な体に生まれただけ感謝せな。体力はこれから少しずつ付けていけばエエ。毎日歩く事から始めるんじゃな。」


 『あぁ、そうじゃなくて…』

 思わず口に出だ感情に反応があり、さらに出そうになった言葉を飲み込む。


 「はい、精進します。」


 私の事を思ってくれた助言には、つべこべ言わず礼を持って返そう。だけど、こうなっている原因は調べなくちゃいけない。おそらく体力づくりで改善されるほど事は簡単では無い。


 「ス~。ハ~。よし、お待たせしました。」


 体調と深呼が整った事を確認してから歩き出す。

 が、今度は少し前で待っててくれた爺さんが動かない。何故か真っすぐ進んできた道ではなくあらぬ方向を見ている。

 不思議がって見ていると唐突に振り返り、


「もう少しで森の出口なんじゃが…ちょっと気になる事があっての。少し道をそれるぞい。」 と、言い出した。


 あれ?森の中の爺ん家に行くんじゃないの?そこで私の生態を観察されるかと思い込んでたよ?

 さっきの話で私の事情を酌(く)んでくれたの?信じてもらえたのは嬉しんだけど、『しばらく同行する。』って言ってたのに時間短か過ぎない?

 世界の情勢とか聞いて、今後の方針とか相談したいよ?なのに突然この世界にほっぽり出されるの?ここまで話してきて急に見捨てられんの?あんまりじゃない爺?

 突然の予期せぬ言葉に疑問と不満が頭を駆け巡る。


 それに出口?森の?まだ数十分しか歩いてないよ?入る前は本来の体長から見渡しても地平線まで森だったよ?すっごい広いよ?ちょっとそこまでじゃ着かないよ?本当にボケちゃったの??

 やっぱり謎が多すぎるぞ爺さん。処理できん。


 状況が飲み込めないまま一歩踏み出したその途端、混乱はさらに加速する。辺りが急激に薄暗く変化したのだ。

 『なんじゃコリャコリャ。』と心の中で軽口を叩きながら、振り返ると来た方角のはずである場所も薄暗い。あたり一面の景観や森の雰囲気が明らかに変貌している。

 一瞬すぎて何が起きたか全く分かんなかったよ。あたしゃ。


 「え、何ですかコレ?」

 「ん、”森”に入ったんじゃよ。」


 素直にゴリ爺に尋ねると素で答えよる。いや、いままで歩いて来た道わいっ!


 「ずっと前から森には入ってましたよね!ちょーーーっと、森にしては『ちょっと明るすぎるない?』とは思ってましたけどもっ!ここが”森”ならさっきの道は何なんですか!?」


 「なんじゃお主、急に面倒臭いのぉ。あの道に反応しとらんかったから『肝が太いのぉ。』と思っとったが鈍いだけじゃったんかい。森の中があんなに明るい訳なかろーが。」


 どーせ、私はニブチン女子ですよ。でも世界のこと知らないんだから『こっちの森はこうなのかな。』とか思うじゃん?常識的に考えて。


 「ちゃんと一から説明して下さいよぉ。この世界のこと何にも分かんないんですよ?色々と端折り過ぎですってぇ。」


 爺は頭をポリポリしながら、


 「簡単に言うと管理者通路じゃ、さっきのは。森の端と端を特別な空間で繋いどる。」


 「もしかして、入り口や出口は自在に変更できる?」


 たったいま適当な場所から入って森の端じゃない所に出たからね。誤魔化しはできませんよぉ!現行犯ですからっ!!


 「まいったのぉ…その通りじゃ。」


 よっしゃあ、言質(げんち)とったどぉ!

 凄いやん。凄い通路やん。ファンタジーな奴やん!ピンク色のドアみたいな奴やんっ!『どこでもツウロ』やんっ!!


 謎空間とワープ要素にテンションが跳ね上がる。浮かれて歩いていると、前を歩いていたゴリ爺にぶつかる。


 「ご、ごめんなさいっ!」


 のぼせて歩いてた自分の不注意を平謝りするも返事が無い。いつの間にか立ち止まっていたゴリ爺の顔には苦い表情が浮かんでいた。どこか一点を見つめている。

 その視線の先には…『オオッ、オオオッ!』さらに私のボルテージは最高潮を迎える。思わず心の中でガッツポーズを掲げ、雄叫びをあげていた。


 「エッ、エッ、エエエエッ。」

 「厄介事じゃな。それも特大じゃ。」


 興奮し過ぎて上手く言葉を発せない私を尻目にゴリ爺はポソリと呟いた。

 ”厄介”と言われた人物は薄汚れているものの、綺麗な眩い純白であったろう高級そうなドレスを着ており、『特徴的な尖った耳』に『端正な顔立ち』をしていた。

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