第3話 おっ?詰んでね?コレ。

  弱り目に祟り目ってのは良く出来た言葉ですね。


 ようやくヒュドラである事実を飲み下せたと思ったら、今度は置かれた状況でさらなる追い打ちをかけてくるんですもん。


 周囲は正円かってほどキッチリ丸く、淡い紫色した見事な毒池。

 “池”って言ったのは景観がそこそこ良いからで、毒以外の露出部分は透明感のある煌(きら)びやかな鉱石だから、“沼”って印象を全く受けない。

 その中央にあるこれまた正円の小島に自分がいて、池に囲まれてる。この小島は誂(あつら)えた様に平坦。


 まるで、つるピカ頭の眉間に六つ痣(あざ)がある、オレンジの道着を着た人が気○斬とかいう技で水平に斬れるかチャレンジしたよう。


 広さは自分の体より一回り大きくてギリギリっちゃギリギリ。

 池の外周はそのまま反り立つ断崖絶壁になっており、体感300m級がそびえ立ってる。

 全体の形状を例えるなら、伊豆諸島にある青ヶ島の二重カルデラに毒を溜めたイメージに近い。でも自然に出来たというよりは人工的に造られたって感じの均一な造り。

 小島から外壁までの距離も等しく100mぐらいあって、デカい図体のお陰でそこまで距離は感じない。


 まぁ、置かれた環境はざっとこんなモンですかね。

 改めて考えると、完全に詰んでんなコレ。池の底が見えないから外壁に近づけるかさえ微妙だし…。自分が国家や大陸単位で組織的に封印くらってるまであるわぁ。


 とりあえず何とかしないと身動きとれないですから、しばらく考えて幾つかの

脱出計画を企てた。思いついた案は以下の三つ。


1、ヒュドラだったら毒液無限に生成できる?それを池に溜めていって嵩(かさ)増しすれば、いつか自分の体も持ち上がって崖の上まで辿り着けるやん!

 でも、浮かない体だったら溺れて一発お陀仏作戦。


2、外壁や小島の素材は濃い紫色だが水晶みたいで簡単に割れ易そうだから、物理的に砕いて穴をあけていく。さらに削って崩った破片が池に溜まって足場になったら悠々歩いて壁抜けれるやん!

 でも足の裏に鉱物の欠片が刺さったら大怪我するかも作戦。


3、何とか外壁まで辿り着き、頭突きで壁に穴を開けながらロッククライミング形式で崖の上まであがる(四つ足では短すぎて多分無理)。スポーティーだから体力づくりにも健康にもいいやん!

 でも頭にパンチドランカー的な後遺症が残るかも作戦。


 一番現実的なのは②ですかね。

 ①は浮いたとしても毒を溜めるのに時間がかかり過ぎるし、③は脳みそヤバい。


 とりあえず、池底に足が着くかだけでも検証する価値はあるかも。外壁まで容易に近づけるだけで格段に難易度は下がるはず。試しにできる所まで池に入水して検証しよ。


 恐る恐る後ろ脚から慎重に毒へと浸かっていk…

 《ズリっ!》

 思いっきり滑りコケて腹打ちを喰らう。


 「ぐふぅ!」


 そのままズルズルと池へ自由落下していく。


 「うっそぉ!ギャーーーッッ!!落ちる!尻(ケツ)からズリ落ちる!!」


 その瞬間、反射的に首を伸ばして小島の縁へ辛うじて頭を引っ掛ける。


 「全然とどかへん足!ぜんぜんやん!体もぜんぜん浮かへんやん!!」


 毒池は底深く、後脚で着地点を探ろうが掠(かす)りもしない。ジタバタと首や前脚で藻掻(もが)いた後は、命からがら元居た場所へ滑り込む。


 「ヒューッ!あぶなっ!落ちたら終わってたわ!諦める前に試合終了するトコだわ!!」


 脆いと思われた鉱石部分は、水晶の様な質感を放ってやがるクセに『摩擦係数0か!』ってぐらい滑るうえ、巨大獣の爪をもってしても傷ひとつ付かないほど硬かった。硬度高すぎじゃろがい!!ふざけんなっ!!!

 脆かったら脆かったでヤバかったけど、見た目に反してマジ固すぎない?何すかコレ?

 オリハルなんちゃらとか、アダマンなんちゃらとか、ヒヒイロなんちゃらとか、そういう妄想いっぱい夢いっぱいの鉱物なんじゃないのコレ?


 放心とも落胆ともつかない感情が心に蔓延し、『ぽかーん。』という擬音が耳元で響く中、【爪で壊れない鉱石】、【足が届かない池】、【体が浮かない毒】のせいでとりあえず全ての望みが絶たれた所でもうダメ。

 お疲れ私。

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