第7話 幻の左

 魔法と信じてきた攻撃がただの物理だった。

 その事実が明らかとなり分かりやすく落胆する私。

 ゴリ爺は大人な感じで少し諭(さと)すように話し始める。


 「ハ~、しかたない。魔力循環やら操作から教えてやるかのぅ。まずは―――。」


  大雑把かと思いきや以外と懇切丁寧に教えてくれる爺。紳士で優しいお爺タマありがとぉ。偏屈ゴリラじじぃなんて言ってゴメンナサイ。


 ―――30分ほど魔法発動の手解きを受けると、いよいよ…。

 囁き ――― 祈り ――…は、もういっか。詠唱を終えると周囲が青白く光りだしたと思ったら一気に体へ集束する。途端に凄い勢いで縮小が始まると私は感嘆の声を漏らす。


 「オオオオオッ!?すごい!私いま魔法使ってる!!」


 毒攻撃には申し訳ないけど、神秘感ハンパねぇわ!!

 縮小は数秒ほどでピタッと終わった。早いけど身長はまだ大樹とゴッツぐらい。10mぐらいある?


 「お主、無駄にデカいのぉ。」


 うぅ…。好きで巨大になったんちゃうっつかアンタもだろっ!ツッコみ終わるのを見計らったかのように、

 『ドゴォォォッ!!』

 と、激しい音を立てながら体が地中にめり込んでいく。

 シズム!?シズムナンデ!?


 「言い忘れたが、高密度になるだけで質量は変わらんぞ。普通は先に重力軽減の魔法をかけるんじゃ。」


 ニヤニヤしながら声を掛けてくる…爺ぃワザとだな人が悪い。絶対おちょくられてるよ嫌いだわぁ。

 質量そのまま縮んだって事は、100キロの人が重さそのままに赤ちゃんぐらいまで小さくなったって事。まして、私の体格は規格外だから高層ビルの重さで雑居ビルの大きさね。そら沈むわ…なんて言ってる場合じゃないっ!!


「呪文は『ウージンエグ インーチ オン ンウブージ』じゃ。はよ唱え。」


 おう、コッチが聞く前に教えてくれるとは気が利くじゃないの。だからと言ってさっきのおふざけは許しませぬからなぁ!

 早口で唱えた魔法により体半分の所で沈下が治まる。

 人心地ついたのち魔力を込めず呪文を呟く。ウージンエグ…冒頭の部分が違ったな。さっきは、ウオユスクユスだった。この辺に謎解明のカギがありそうだ。

 

 むりやり身を捩(よじ)りながら、もんどり打って穴から出てくる。この短時間で2度も穴から這い出る事になるとは…。トホホっ。


 「その図体じゃまだ森が傷つくのぉ。しかたない今回だけ特別に半分だけ縮む魔法も教えよう。呪文は『ウオユスクユス インーチ オン ンウブ イン』じゃ。」


 今度は最後がちょっとだけ違うが、最初が魔法の種別で最後が縮尺の度合いか?唱えると確かに大きさが半分ほどになった。ってことは5m。さらに唱えて2.5m。

 本来の大きさに慣れ始めてたから圧倒的に小さく、ほんと蟻にでもなったかの様な不思議な感覚。これでも人間よりまだ大きいんだよね。

 となりで佇むゴリ爺は私に合わせて縮小しているが、見ててもいつ詠唱して小さくなってるか分からない。謎が多いわー。


 「そのぐらいでエエじゃろ。それで中型魔獣ぐらいじゃ。その前の大きさが大型じゃな。」


 なるほど中型で約2.5m、大型で約5mって事か。


 「大型より上の魔獣はいるんですか?」

 「大型より上は倍の10m級じゃ。最大級になる超大型じゃから殆(ほとん)どおらん。」


 なるほど、最大が10m級…って


 「へっ!?私は?」


 ”10mクラスでほとんどいない。”との言葉に驚いて尋ねると、ゴリ爺は爆笑しながら…。『ドゴォッ!!。』

 

 「グフゥッ!!」


 一瞬なにが起きたか分からなかったが、右わき腹に高速の左フックをお見舞いされていた。当の本人に悪意があった様子は無く、笑い転げている。


 えっ!これツッコミ!!死ぬよ?普通死ぬレベルよ??レバーブローだよ今の!?ツッコミ死するよ!?常識的にツッコミじゃなくてボケてんのかな?ゴリ爺は…。


 「いやー、笑わせてもろたわい。」


 途中で笑い過ぎてだいぶ咽てましたもんねぇー。ツボがまったく意味不明。


 「お前さん名前だけじゃのぉて自分の存在が何かも解ってないんじゃな。あ、自分がヒュドラって事は解ってるか?」


 完全にバカにされてる…。ムスッとした表情で答えよ。


 「当然じゃないですか。」

 

 「すまんスマン。そういうつもりで言った訳じゃないんじゃ。」


どうゆうつもりやねんっ!


 「お前さんが今どれだけ自分を理解しとるか解らんと説明しようがないじゃろ?まぁ、おいおい説明していこうかの。」


 ゴリ爺はそう言ってゆっくり森へ近づいていく。そう、実は私たち森に入ってもなかったのだ。ずっと山と森の間にある麓の少し開けた場所にいた。


 これでようやくココを離れる事ができる。何も言わず背中で封印の山に別れを告げた。カッコいいぞ私。

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