第6話 ゴリ爺と魔法と近くて遠い森

 結構な加速度がついて落下してる。それは自分が重いから。チキショー!

 そして私は、この回転の中で白い塊をしっかり画角に入れている3カメさんに気付く。素晴らしいテク。


 どんどん迫ってくる白い塊はハッキリ見えると毛玉の塊である事が判明する。

 何ソレ?自然界にそんなもんあったっけ?

 『ドォォォォオオオンッ―――!!』

 オハズカシイ。おっきな体ですもんで。


 落下音や地面に激突した事実に記憶的な痛みを感じてしまってたけど、実際には全くと言っていいほどノーダメ。なんて頑丈な体なんだ!スバラッ!!この高さで何とも無いなら物理攻撃無効かも。

 ヤッタ~!マジでかっ!常時スター状態!強キャラ確定!!生存確率上がりまくりよん!と心の中で小躍りする。


 あっ、忘れてたわ。白いの。慌てて視線を向けると、そこには―――、


“でっかいゴリラが立ってた。”

 間違いなくゴリラ。紛う事なくゴリラ。これはゴリラ。ゴリラ of ゴリラ。

 2足歩行で、ズングリムックリ。しかもでかい。半端じゃない。私の体高【頭と首を除く】より頭一つ高いって事は体長70~80m近くあるんじゃね?うん、キン○コン○とかウル○ラ怪獣とかかな?


 あまり怖さは感じられないが独特の不気味さを持ってる。

 何故ならゴリラは何も言わずにジッとこちらを見ているからだ。

 仲間になりたいのかな?


 「えーっと。どちら様ですか?」


 沈黙に耐えかねて声をかける。すると直ぐさま、


 「人に名を尋ねるときは自分から名乗れと、親や大人に教わらなかったか?」


 と、ぶっきらぼうに返される。うわ。面倒くさい人だ。


 「すいません。名乗りたいのは山々なんですが、なにぶん自我が芽生えてから幾許(いくばく)も経っていないものですから解り兼ねますので。」


 こういう厄介な手合いは丁寧な言葉で適当に受け流すに限る。


 「そうかそうか。オヌシが名乗らないんなら、ワシも名乗る訳にはいかんよな。   ただ自分の名前も分からんお前さんに、この森を自由にうろつかれたら困るでの。しばらく同行させてもらうぞい。」


 ゲェーッ!そうくるかぁ!やっと外に出れたのに…やっぱ一筋縄ではいかないですねぇ人生。『一人で世界を見て回りたいんです』とか、『プライバシーの侵害ですので』とかの言い分は通用しそうにないよ。『ついて来ないで下さい。』とハッキリ断れたらいいのに。

 『ハァー。』と溜め息ついてトボトボ歩き始めようとした時、


 「おいっ。そのまま行くな。」


 と、強い口調で呼び止められる。『ふぁい?』っと思わず変な声でちゃった。言われた意味が解らず呆気に取られていると、


 「お前さん身体伸縮の魔法も使えんのか。縮まんと森の木々が踏み荒らされるじゃろが。」


 ほう、伸縮魔法とな?ちょっとだけテンション上がるよ?それは。そんな便利なモンがあるなら教えちくり。


 「まだ攻撃魔法しか使えないんです。是非ともご教授頂けますか?」

 「お主、攻撃魔法が使えて基礎魔法が使えんて順序ムチャクチャじゃな。教える代わりにお前さんの攻撃魔法ってのを後で見せてくれるかの?」


 「それは構いませんよ。」


 そんなん減るもんじゃないし。


 「よし。まず詠唱から教えようかの。」


 ん?いま詠唱って言った?


 「えぇっ?魔法ってイメージして出すもんじゃ無いんですか!?」


 瞑想とか座禅とか明鏡止水とか精神強化的なモンが来るかと思ってたよ。


 「そんなんで出来る訳ないじゃろーが。それで良いならどんな魔法も容易に出来てしまう。愚者たちが他者を脅かす強力な魔法を作って、それに対抗するためのより強力な魔法が生まれてを繰り返し、世界は地獄になるじゃろな。そんな無秩序を魔法神が許すとでも思うかね?」


 呆れた顔して正論をぶっ放すゴリ爺。確かにその通りだ。記憶の中にある『核兵器』と一緒だな。偏屈そうに見えて意外に真っ当な事を言う。


「いいから早く始めるぞい。『ウオユスクユス インーチ オン ンウブージ』と、唱えい。」


 んん!?何だこの聞いた事ある感は?なんか知識の中にコレと近いものがあった気がする。

 もしかして呪文を仕組みが解ろうもんなら、魔法創造とか出来できちゃう系?やったーっ!!俄然やる気が出てきたよん!

 まぁそれは爺ちゃんにバレないよう後でコッソリ考えるとして―――、今は伸縮魔法に集中だ。


 囁き ― 祈り ― 詠唱 ― 念じろ!


 「ウオユスクユス インーチ オン ンウブージ」


 シ――――――――――――ン。


 ガーンだな。イキって呪文唱えた挙句、厳(おごそ)かに天を仰いでしまった。

 たぶん、私の真っ黒い顔も真っ赤ですよ。真っ青かも。幸いにも目を閉じていたので、このまま永遠の眠りにつきたいと思います。

 アディオス。アミーゴ。ヒュドラ先生の次回作にご期待ください。


 「何をふざけとるんじゃ?」


 ゴリ爺の呆れた声が聞こえてくる。聞かないで。眠らせて。


 「魔力を巡らせないで使える訳ないじゃろ?」


 溜め息交じりにトドメを刺してきおる。いやー、そうだと思ってたんすよ師匠。

 常識で定番ですよね。魔力循環なんて。くっそぅ。そのまま恥を忍んで循環方法を尋ねるより早く、


 「そういや、お主さっき攻撃魔法を使う言うとったの。それに魔法はイメージでとかも。どれ、見せてみぃ。」


 確かにそれも嘘っぽくなっちゃいますよねー。でもホントなんですぅ。すぐに1~9カメさんの攻撃を封印の山に向けて放つ。どやっ。

 振り返ったら、さっき見た顔されてるぅ!?メッチャ呆れられてるやん!もう私に失礼なレベルで!


 「お前さんが魔法と言うとったそれな。只の体内機能による毒攻撃じゃな。魔法なんか一切発動しとらん。蛇が牙から毒出すんと一緒じゃ。」


 なんですとっ。魔法じゃ無かったですか。ヒュドラの体ん中どうなってんですかね。5カメさんの砲撃もタダの物理なんてビックリですわ。

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