第5話 完全なるパワープレイ

 ちょ―――っぴり心が折れかけてるけど、やっぱどうしても外に出たい。

 寝返り一つ打てない場所で身動きとれずに生きるのは置き物と大差ないと思うんですよ私。

 このままだと精神的に安定しないんですよね。人間性やら言葉遣いやらが逆に壊れていっちゃいそう。


 そんな私が先ほどの魔法実験を踏まえて、新たに拵(こさ)えた脱出計画は三つ。


1、毒針を小島に敷き詰めていって高さをだす


2、粘毒を少しずつ小島の上で固めていって高さをだす。


3、首を放射状に広げて壁につっかえさせ、4から5本を交互に上下させ攀(よ)じ登る。


 うーん、1番か2番っすね。3番は勢いよく毒魔法を打ち出してる際に偶然かなり首が伸びる事に気が付いただけで、曲芸みたいな事すると首痛めそうだし単純にキツそうなんでやりたくない。

 まぁ最後の手段っつーか基本3番は無しですね。

 って言ってたこの後、私はしっかり回収しますよ。”フラグ”って奴をな。へへっ。


 さっそく1、2番を実現するため色々と試してみたんですけど、まー針はバラバラと纏まらないわ、粘毒はグチャグチャで固まらないわで和えなく失敗。笑えない。

 悪あがきで粘毒を針の繋ぎにして固めようとして見たんですけど、ネチャつくばっかりで固まってくれなかったんで、私の重さ支えられる強度は出なかったんですよね。失礼な。

 その後も試行錯誤を繰り返しましたが小島が散らかるだけで一切ダメ。お手上げ。割とマジで。


 あぁ、なんてこったい。もう最後の3番しか残ってないジョノイコ。とりあえず伸ばした首が全て壁に届くのか様子を…できましたよ。普通に。

 だから私は、『フラグ』となった不用意発言を心の中で自虐しつつ、意を決して登頂開始したんです。


 伸ばした頭を頂点にして線で結んだら見事な正九角形ができるほど均等な感覚で放射状に広げていく。いくら首が九つあるとはいえ、伸ばした状態で全体重を支えるのはかなりきつい。

 それでも1・9と4・5・6、2・3と7・8の頭の組み合わせで対角線上に2チームつくり交互に動かす。

 胴体部分を気持ち下げては反動をつけて跳ね上げ、より高いポジションの僅かな手がかり(頭がかり?)を確保する。

 胴体は2足歩行のような姿勢となり、ぶらんとだらしなく垂れ下がる格好。まるで地面と水平な蜘蛛の巣の真ん中に分銅を付けた様な状態。それを必死に少しずつ吊り上げていく。

 やっぱ九つの首を支えているだけあって、丸々とした胴体は


 「重ぉぉぉぉい!いったい何を食べたらこんなに丸々と太んのよ!これ豊満(ダイナマイト)ボディですぐに首が逝ってしまうって!

 難易度が厳(いか)ついでしょ!これで上までいってたら壁に額が研磨されて、比喩なしに『つるつるデコ助野郎』になってまう!」


 そんなこんなで愚痴りながらも一気に駆け上がっていく。

 ここまで、首だけじゃなく頭部にもかなりの負荷がかかってる筈だが、割と脳への圧迫感は感じない。もしかして頭自体には脳みそないんじゃね?目や口の器官としての役割だけでって…そりゃそっか。

 ヒュドラって首切られても異常な再生能力でまた生えるんだっけ。そんな部位にブレインあるわけないよね?めっちゃ天然だったわ。恥っず。


 さらに登り9合目まで辿り着いた時、事態は急変する。


 「うぉぉぉぁぁぁぁあああ!ヤッベェェェエエエエ!めっちゃプルプルしてる!めっちゃプルプルしてるやんクビィ!?おっも!メチャ重!!もう体感100倍ぐらいなっとる!あと少しなのに!もうちょっとなのにぃ!!」


 首の可動限界は目前。支える余力は殆(ほとん)ど残って無い。だけどここまで来て諦めたくない。もう一度なんて絶対無理っ!


「首がぁぁぁあああ!つってるっっっ!!」


もう半数の首が動かなくなってる。

 

「動けぇぇぇぇえええええ!!!!!ヒュドラなんだろっ!?神話の魔獣だろ!?上がれっ!!上がらんかぁぁぁぁあああ!!!」


 晴れ時々大荒れなイイ人生歩んでそうな人のセリフが口にでる。

 苦肉の策で頭を壁に着けたまま、反動付けて無理やりズリ上がる。正直もう完全にヘバってる。


 なんとか崖の上限一杯まで到達すると勢いそのまま体の正面側へジャンプし、辛うじて動く首を何とか縁にフックする。

 直ぐに尺取り虫のように前へ前へと這いずりながら、最後の気力を振り絞り胴体の前足も何とか引っ掛け体を持ち上げる。

 最後は斜面になっていた崖の外へ自重を利用して全身を放り出す。


 そして死闘の末、ついに私は牢獄からの脱出に成功した。


「登りきったたどぉぉぉおおお!どやさぁぁぁぁあああ!!」


 急斜面を転がり落ちながら呼吸をするのと同時に絶叫していた。


 改めてヤバかった。外は急勾配(きゅうこうばい)の山だったけど、もし、平地とかの場所に掘られてたら終了だった。外が斜面でなく平坦だったら登り切れた気がしない。

 何故なら外面も中と同じくツルツル鉱石で出来ていたから。さらにツイてたのはゴツゴツの岩肌だったんで、頭を引っ掛ける取っ掛かりがあった。とにかく無事に出れてよかった。


 実はこの振り返ってた間にも山の斜面をゴロゴロ落ちてたんですが、裾野に広がる大きな森の落下地点付近に不自然な白い塊がある事を見落としてました。警戒心より安堵感が勝って全く気にして無かったんです。


 でも私は無意識に3カメさんでその姿をバッチリ捉えていました。

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