第14話 夏と買い物

「ねぇ健吾君。どうかな?」

「似合ってるけど、 ちょっと大胆すぎやしないか?」

「そうかなぁ?でも健吾君こういうの好きでしょ?」

「そ そりゃ好きだけどさ」


部活にバイトにと"今年の夏はゆっくりと"という思いとは裏腹に俺も楓も毎日忙しい日々を送っていた。

そんな中、今日は部活もバイトもオフの日ということで楓と2人ダラダラ部屋で映画でも見て過ごそうかと話をしていた・・・はずなんだけど、楓が"新しい水着が見たいなぁ"と言い出したので、昼飯がてら商店街にある馴染みのスポーツ用品店へ来ていた。


丁度2,3日前に水着フェアの広告がポストに入ってたんだよな。

前にアウトレットセールやっていてバッシュを買いに行ったこともあったけど、ショッピングモールの大型スポーツ用品店に対抗して色々とイベントを開催しているらしい。

商店街も生き残りのために色々と考えてんだな。


で、今は楓が選んだ水着の試着をしているわけなんだけど・・・楓さん?結構今年の水着攻めてません?

一昨年と同じ黒ビキニ。

スタイルの良い楓にはピッタリではあるんだけど、前の水着より布の面積が狭いというか・・・肌色部分が多くて結構刺激が強い。


「駄目かな?」

「・・・似合ってるし駄目ではないけど」

「けど?」

「水着の上からパーカーとか着るならいい・・・かな。

 その・・・楓の水着姿あんまり男どもに見せたくないからさ・・・あぁもう。恥ずかしいからあんまり言わせるなよな!」

「健吾君・・・もぅ私まで照れちゃうじゃない♪

 じゃ、この水着とパーカー買うからね♪」


こういう事を楓に言うのも久々だな。

自分で言ってて何だか照れる。

俺って独占欲強いか?いや、普通だよな彼氏として彼女の水着姿他の奴に見せたくないって?


「うん。うん。その気持ちわかるぞ。田辺」

「へ?誰って梶?」


何故か俺を見ながら頷いている梶が居た。

っていうか"わかる"とか言ってるってことは俺と楓のやり取り聞いてたのか?

結構恥ずいぞ。

ここ女性の水着コーナーだけど・・・こいつも買い物か?

それに確か横川の方に引っ越したんじゃなかったってけ?


「なんで川野辺に居るんだ?確か横川の方に引っ越したんだよな」

「あ、あぁ家は横川だが、今日はちょっと"彼女"の付き合いでな水着買いに来たんだよ。彼女の家はこっちだからな」

「なるほど」


そういえば高2のホワイトデーに後輩の子に告白したんだったよな。

確か・・・和泉さんだったかな?

1学年下だから今は高3かな?

ちゃんと続いてたんだな。


「しっかし、田辺と小早川は相変わらずな感じだな」

「何だよ、相変わらずって」

「いや、悪い意味じゃなくて仲いいなってな。

 家も同棲してるみたいなもんだろ?

 親も公認なんだからとっとと結婚しちまえばいいのに」


いやいや簡単に言うなって。

結婚は・・・まぁするつもりだけどある程度生活の基盤をだね・・・一応色々考えてるんだぜ俺も。


「まぁ結婚は当然考えてるけど、少なくとも大学卒業して、ある程度生活費を自分で稼げるようになってからかな」

「・・・ほんと相変わらずだな。結婚とか臆面もなく言うか普通」

「そうか?」

「そうだよ。ほら後ろで"奥さん"が顔真っ赤にしてるぜ」

「け 健吾君・・・その結婚って・・・」


梶に言われてうしろを振り向くと着替え終えて水着を持った楓が俺の方を見て顔を真っ赤にしていた。


「い いや・・・まだ先だけどな・・・か 楓も・・・その・・・考えておいて欲しい・・・」

「は はい。健吾君」


「・・・俺は何を見せられてるんだ田辺、小早川」


試着コーナーの入り口で見つめ合う俺と楓。

そして、それを眺めている梶。

なんだろこれ。。。


と、試着室の方から控えめな声で可愛らしい感じの女性が梶に声を掛けてきた。


「あ、あの竜太郎さん・・・その・・・水着着てみたんですが・・・取り込み中でしょうか?」

「い いや大丈夫だ。 今行くよ。

 じゃまたな田辺、小早川。2人共公共の場でイチャつくのは程々にな」

「お おぅまたな梶」

「う うん梶君また」


そう言いながら試着室の方に梶は消えていった。

楓と付き合い始めてから2年半くらいだけど、結婚とかきちんと言葉に出すと照れるよなやっぱり。

でも、アパートに楓が引っ越してきてからは一緒に居るのも普通になって来てたし、親父達もすぐ近くに住んでるし・・・これってやっぱりもう結婚してるのと同じようなもんなのか?

そんなことを考えていると楓が俺の腕に抱き付きながら話しかけてきた。


「健吾君♪ お腹空いてきたしそろそろ行こ♪ 

 今日は久しぶりに美玖ちゃん達の店で食べるんでしょ?」

「そうだったな。さっき裕也にはメッセージ入れといたからいつもの定食と席は用意して待っててくれるはずだぜ」

「ふふ 久しぶりだし楽しみだね」


俺と楓の幼馴染でもある裕也の実家の小料理屋。

昼時のランチ営業は裕也と彼女というか婚約者の浜野(美玖)さんが主に切り盛りしてるんだけど、2人の料理の腕前もあり中々の繁盛店になっている。

この間、フラっと行って見たら満員で結構待ったんだよな。

あいつらも調理師の専門学校には通ってるけど、結婚して店を継ぐのは決めてるみたいだし進むべき将来はもう決めてるんだよな。


俺も楓もまだ大学1年だし慌てることはないかもしれないけど、ちゃんと考えないとな。

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