第15話 夏と海の家①

「来たねぇ~」

「だな」


夏休みも中盤となった今日。

俺と楓は静岡のとある駅に来ていた。

夏川さんの親戚の経営する海の家でバイトをするためだ。

本当はもう少し早い時期から頼まれてたんだけど俺と楓は部活の他に塾のバイトもあったから少し参加が遅れたんだよな。


「それにしても暑いね」

「あぁ。歩くには遠いから車で誰か迎えに来てくれるって話だったけど・・・」


夏川さん曰く海の家は当然だけど親戚の民宿も海には近い最高のロケーションとの事(バイトが休みの時間帯は海で遊べるそうだ)

ただその分駅からは離れているらしく歩いて行くには距離があり民宿へは駅前から送迎バスを出しているとの事だった。

今回も迎えの車を出してくれると聞いていたので、夏川さんに電話をしようとスマホを取り出していると、俺と楓を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえた。


「よぉ田辺!小早川!」

「・・・?もしかして横田か?」

「そうだ横田様だ」


横田睦月。

高校時代に森下学園のバスケ部エースとして藤原と共に俺達の前に何度も立ちはだかった男だ。

都内の大学にバスケ推薦で入学したので会うのは本当久しぶりだ。


「様って・・・それより、もしかして迎えってお前なのか?」

「そういう事。唯香に頼まれてな。それにしても久しぶりだな♪」


あ、ちなみに夏川(唯香)さんの彼氏でもある。

にしても・・・


「それお前の車か?すげぇな。いつの間に免許取ったんだよ?」

「おぅ。まぁ中古だけどな。免許は大学通いながら教習所でな」


横田はスポーツタイプのセダンに乗って俺達の前に現れた。

確か某峠を走る漫画にも登場した車種だよな。いい趣味してる。


「すげえな。でも、都内なら車とかあんまり使わないんじゃないか?」

「・・・まぁ大学は"都内"ではあるけど俺の学部のキャンパスや寮があるのは都内とはいえ結構な郊外だからな。下手したら川野辺や横川より田舎なんだよ。。。」

「・・・そ そうなんだ」


確かに都内って言っても広いからな。

県境の方まで行くとほとんど山だし。


「それに車があれば川野辺に来るのも楽だしな」

「ん?結構帰って来てるのか?」

「あぁ。唯香と会いたいし、ドライブとかも結構一緒に行ってるんだぜ」

「ほぉ~」


夏川さんも横田と会ってるとかあんまり言わないからなぁ~。

でもドライブデートか。

確かに車があるとデートの行先も幅が広がるよな。

楓も車は好きみたいだし良いかもな。


教習所は確か川北にあるし、車もとりあえず親父のを借りれば・・・

ちょっと後で調べてみるかな。


「あ、健吾君。もしかして免許取ろうかなとか考えてる?」

「え?あ、あぁ楓とドライブとかいいよなぁって」

「うん♪」


「ったくお前らは相変わらずだな。イチャつくのは着いてからにしてくれよ。

 とりあえず、暑いし早く乗ってくれ」

「サンキュ。ほんと今日暑いよな」

「うん。ありがとね横田君」


横田に言われ、俺と楓は部後部座席に乗り込み一路夏川さんの親戚が経営するという民宿へと向かった。


「わぁ健吾君。海だよ海!」

「ほんとだ綺麗だな」


駅前から少し街中を走った後、車は海岸線を走る道路へと出た。

午前中の早い時間帯ということで道はまだ空いているけど、砂浜にもちらほら海水浴客やサーフィンをする人が見える。

それに潮の香りというか風も心地よい。


「まだ時間も早いからあんまり混んでないけど、海の家がある海水浴場は結構混雑するから頑張ってくれよな」

「あぁ。俺も楓も喫茶店でバイトしてたし接客は任せてくれ!」

「そうだったな。結構忙しいし期待してるぜ!」


来るのが遅れた分頑張らないとな。



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その後、しばらく海岸線を走ったところで、車は脇道に逸れ少し高台に上ったところで止まった。


「ここが夏川さんの?」

「驚いたか?」

「あぁ。民宿って聞いてたから」


そう。夏川さんからは宿泊は親戚の民宿に泊まれると聞いてたんだけど、俺の思っていた民宿とは規模が違う。

目の前にある建物は民宿というより旅館ともホテルとも言えそうな位大きな建物だ。


「まぁ俺も去年初めて来たときは驚いたよ。元々唯香の叔父さんがこの辺りの地主さんらしくてな。この民宿も改築はしたらしいけど元々叔父さん達が住んでた古民家らしいんだ」

「そうなんだ」

「料理も美味しいし、裏手には温泉もあるし中々快適だぜ♪」

「マジか。温泉もあるんだ。そりゃ楽しみだな」


先にバイト始めてら藤原や露から食事が美味しいとはメール貰ってたけど温泉は知らなかったな。


「じゃ部屋案内するな」

「おぅ」


車を降り横田の後に続いて民宿の中に入ると内部は改築されていて綺麗なんだけど、何となく懐かしいというか田舎に来たような気分になれた。


「あら、睦っちゃん。そちらは?」

「あ、芳香さん。バイトの追加2名で田辺と小早川です」


建物に入ってすぐ30代くらいの女性が横田に声を掛けてきた。

睦っちゃんって・・・

ちょっと顔の感じとか夏川さんに似てる気がするけど親戚の人かな?


「あら。それじゃ今日から頑張ってね。私はこの宿のオーナーで唯香の従姉の春川芳香よ。よろしくね」

「「はい。こちらこそよろしくお願いします」」


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1か月以上空いてしまいました。

すみません。これからはまた週一更新ペースには戻したいなぁ~

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