第10話 僕の女神様 -天野 聖矢視点-

「よっ天野!露の事頼んだぞ」

「え!?あ、あぁ任せろ!」


露ちゃんの居る教室へ向かう途中、田辺に"露の事頼んだぞ"って声を掛けられた。

思わず"任せろ"とか言っちまったけど、田辺って露ちゃんの身内だよな?

あの返答で良かったんだろうか・・・。


この間は、駅前で本人が来ていたのに気が付かず露ちゃんの事を"女神様"とか"僕には眩し過ぎる"とか・・・思い出すだけでも結構恥ずかしいセリフを言いまくってしまった。

その後は露ちゃんの人見知りな性格もあり、当然の如く気まずい雰囲気になってしまった。まぁ逆の立場で考えれば、あんな言い方されたら僕だって警戒するよ。


ただ、そんな僕と露ちゃんに対して、小早川が気を利かせて間を取り持ってくれた。そのおかげでなんと!お互いの連絡先を交換することも出来た。

ほんと小早川には頭が上がらないよ。感謝しかない。


そして、翌日から露ちゃんとのやり取りが始まった。

最初の内は"元気?"とか"今日の授業どうだった?"とかちょっとした雑談が多かったんだけど、お互い打ち込んできたバスケの話や偶然一致した映画鑑賞という趣味等メールや電話でのやり取りも増えていった。

で、今日は露ちゃんを誘って映画に行く。


・・・デートだよねこれ。

そう思っていいんだよね。

まぁ友達どうしても映画位行くだろうけどさ、嫌いな奴とは映画とかも行かないよね普通。少しは僕に好意を持ってくれてるって思っていいんだよね。


でも、ほんと露ちゃんと再会できるとか思ってもなかったし、まさかデートするような関係になるとは・・・。





*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


「なぁ小久保、石森。お前らに彼女が居るってのに何で僕には彼女が居ないんだ?」

「・・・俺達に聞くなよ」

「だな」


この春から僕は川野辺大学に通いはじめた。

都内にある大学に通う選択肢もあったんだけど高校入学と同時に住み始めた川野辺という土地に愛着もあったし、何よりバスケの強豪校という事もありこの川野辺大学への進学を決めた。

まぁそれなりにレベルの高い大学ではあったけど・・・推薦枠も取れたし結構勉強頑張ったから何とか入学も出来た。


ちなみに今は初日のオリエンテーションが終わり同じ高校の同級生で同じく川野辺大学に進学した小久保と石森と一緒に学食でランチを食べながら雑談をしているところだ。


最初の内は、授業の話やサークルの話とか楽しく話をしてたんだけど、いつのまにやら段々自分の彼女の話となり・・・思わず愚痴ってしまった。


小久保は幼馴染の彼女が居るし(凄く可愛いんだよな)、石森は高3の時に中学の時の同級生だった子にに告白されて(あの子は可愛いってより綺麗って感じの子だったな~)

まぁ2人とも地元だし僕より有利なのかもしれないけど、これでも中学の頃はそれなりにモテたはずなんだけど。


「そ それより天野はもちろんバスケ続けるんだろ?」

「そりゃな。もちろん石森もだろ?」

「あぁ。もちろんバスケ部に入るさ。

 だけどレギュラー争いは大変そうだぜ。川野辺の田辺、森下の藤原。他にも各高校のレギュラークラスが入るみたいだからな」

「そうだな」


石森の奴、無理やり話題変えてきたな。

でもまぁレギュラー争いの件は僕も気にしていた話だ。

先輩方の層も厚いとは聞いてるけど、それに加えて僕らのライバルでもあった田辺や藤原も同じ部活で活動する。ついでに2人とは僕と石森はポジションも被るからな。やるからにはレギュラー取って活躍したい。




そして、バスケ部に入部し迎えた新人歓迎会。

新入部員の中には田辺や藤原の他にも何人か見知った顔があった。

一緒にプレイするのは楽しみな反面、予想通りポジション争いは大変そうだ。


色々と考えつつも自身の挨拶が終わり、先輩方に挨拶をしていると女子部員の挨拶が始まった。皆の視線が挨拶をする女子部員たちの方に目がいく。

まぁ仕方ないけど僕らの挨拶の時より先輩方の食いつき方が・・・


田辺の彼女で川野辺の得点源でもあった小早川。それに森下の夏川。女子も近隣高校含め有力選手が揃ってる。

そんな中、最後に自己紹介をした女性に僕は目を奪われた。


「田辺 露です。4年生の田辺雫の妹です。姉さんを目標に中学、高校とPGのポジションでした。レギュラー目指して頑張りますのでよろしくお願いします!」

「可愛い~~」「彼氏とか居るの~」


あの子・・・・


「皆さ~ん? 私の可愛い妹に変なちょっかい出したらどうなるかは・・・わかりますよねぇ~」

「「は はい・・・雫先輩・・・」」


「お おい天野。あの子って」

「あぁ・・・」


女子の新入部員の中に彼女は居た。

そう。中学の時に僕にバスケを続ける希望を持たせてくれたあの時の女神様。

あの時と同じ、少し緊張しながらも人懐っこい笑顔をした田辺露さん。

同じ大学だったんだ!


彼女が居なかったら。その頑張っている姿を見ていなかったら僕はバスケを辞めていたかもしれない。

まさかこんなところで再会できるなんて。

 

正直その後の歓迎会は田辺さんのことで頭がいっぱいでほとんど覚えてなかった。




*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


そして数日後、小久保と昼飯を食べに出掛けた帰りに偶然駅前で田辺さん達と会うことになったんだよな。

あの時は小久保が藤原を見つけて声掛けたんだけど、まさか田辺さん達と待ち合わせしていたとは。

思わず小久保に確認もせずに"僕たちも一緒に行く"とか言っちまったもんな。

ほんと、何処で何があるかわからない。

そんなことを思いながら授業の終わった教室に入ると窓際の席で自習する露ちゃんがいた。

やっぱり可愛いな。つい見惚れてしまう。


「あ、天野君♪ どうしたのボーっとしちゃって」

「あ、いや、何でもない。それよりごめん待たせちゃったかな?」

「全然大丈夫だよ♪それにまだ待ち合わせの時間より早いしね」

「そ そっか。それより今日はありがとね」

「え?何が?」

「あ、ほら映画一緒に行ってくれて」

「ふふ 私も見たかった映画だし、むしろ誘ってくれてありがとう」


友達からとか言ったけど・・・結構早い段階で告白しちゃいそうだな僕。


「少し早いけど行こうか。 映画楽しみだね」

「そうだね」

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