第7話 期待されし新人共

「ねぇ、椅子君。私達のチームに入らない」

「チーム?」


 チームについて説明する。


「面白そう。いいよ。ボクもチームに入れてよ」


 こうして、椅子が仲間となった。


「チーム結成か。リョクチに新入り二人に……おっカワナか、珍しいな。面白いチームが出来上がったな」


 サカエが笑ってリョクチと飲み合う。

 それを見ながらグラスに少し残ったお酒を飲み干した。



 昼に射し込む太陽が眠気を湧かせていく頃。

 私達はギルドの中にいた。


「まだ俺はお前らのことを全然知らねぇ。教えてくれ。まずお前らの魔法についてだ。不意ふい得意について教えてくれよ。ナゴはやっぱり変身か?」


 魔法は見よう見まねのほんの少しかじった程度であり、不意得意と言われてもさっぱり分からなかった。

 それについて聞くと、驚いたようなリアクションを取られた。


「試験で使ってたからてっきり知ってるもんかと思ってたよ。まあ女だし教わる機会なんてねぇもんな。安心しな、俺らが教えてやるぜ」


 この魔法の世界における魔法について、魔法講座が始まった。


「魔法は言葉から放てる。俺なら「り」から始まる言葉が、ナゴなら「な」から始まる言葉だな、その言葉が魔法を放つ根源だ。この「り」や「な」のことをと言う」


 大切な事を厳選してメモ帳に書き写していく。


「で、ここからが魔法の種類についでだ。魔法は三つの種類に分けられる」


 三本指が上に向く。


「一つ目は"変身"だ。これはナゴがやって見せたな。ひとまずカワナがやって見せる」


 カワナから放たれるオーラ。

 包帯の巻かれた左腕を天にかざしていく。


風見鶏かざみどり


 風をまとった巨大な鳥が現れた。それから放たれる勢いのある風が吹く。髪や服がなびいていく。


「このように体が変形し別の形となる魔法を"変身"と言う。動物から偉人、空想上のモンスターまで生物系は変身の魔法となる」


 カワナの姿が元に戻った。

 鳥の面影はもうなく、人間としての存在感が強く放たれている。


「二つ目は"具現化"だ。これは召喚と言うと想像しやすい。とりあえず『林檎りんご』。これ、食べてみろよ」


 どこからとも無くりんごが現れた。赤くて熟したリンゴ。それを手渡された。そのリンゴを口に頬張るとリンゴの甘い味が口の中に広がった。


「何も無い所から何かを生み出すような魔法だぜ。何も無い所からリンゴを生み出すみたいな感じだ。基本的には無機物系がこれに該当するな」


 一つ目、変身。

 二つ目、具現化。

 そして、三つ目は──


「最後は"呪言じゅげん"。その他に分類される存在だ。まあ、例えば「動くな」と言ったら動けなくなる、みたいな感じだな」

「つまり、言葉通りになるってことですか」

「大まかに言えばそうかもな。けどまあ、そんな簡単な話じゃねぇけどなぁ。ひとまずこの三つがあることをおさえてくれ」


 手に持ったメモ帳はもう五ページ目となっていた。


「人はこのうちどれかに得意と不得意がある。得意ならば魔法の持続時間増加や威力強化など様々な恩寵を受けるが、不得意ならその逆効果を受ける。魔法を使うのならば得意不得意を知り、まずは得意を伸ばして戦闘スタイルを見つけることが大切となる」


 変身、具現化、呪言。私はどれが得意でどれが不得意なのだろうか。心の底でうずうずと疼く。


「とりあえず、検査でもしとくか。騎士団本部に行って確かめにいくか」


 騎士団とは男共の憧れの職業である。国直々の戦闘部隊であり、多くの人がそこへの入隊を希望している。

 リョクチとナゴ、椅子はその本部へとやってきて、受付へと向かった。

 コップに入った透明色の不思議な液体。そこに唾液を垂らせと言われた。


 先に椅子がどこからとも無く現れた歯茎みたいなものが先端にある触手がコップに近づき、唾液を落とした。

 受付の人や私達のことを見ている人の顔はほぼ真っ青になっている。

 液体は真っ黒色に染まった。

「こんな色、初めてです。少々お待ちください」

 あふためいた受付。ようやくカウンターへと戻ってくると否や「すみませんが、エラーとなりました。問題が起きましたので、今日の検査は終了させて頂きます」と謝り、その日の検査は終了してしまった。

 椅子は首を傾げながら、

「何で検査終了したのかな。関係者の誰かがやらかしたのかな……」なんて惚けながら渾身の顔で言い放つ。

「いったい誰のせいなんだ」

「全てアンタのせいだよ!!」


 椅子によるトラブルによって、この日ここにいる必要がなくなった。仕方なくここを後にする。


「何だったんだろうな。黒い液体は初めて見たぜ」


 椅子を触手で頬杖をつきながら歩いていく。


「もしかして僕は魔法とは違う類とは少し違うからじゃないですか。僕もよく分かっていないのですけど」

「なるほどなぁ」

「そう言えば、リョクチさんは何色だったんですか」

「俺は紫色だったな。得意は"呪言"だった。その後の吹き込みで不得意が"変身"だったな」


 腕を組んで頭の裏に当てながら欠伸をする。そして、口を動かしながら歩く。そんなリョクチを軽く見上げる。とても惚けた表情だった。


「なぁ、少し王都の方、騒がしくないか」


 王都。それは王の住む豪邸とその周りのことをそう言っている。そこと隣接する騎士団本部。私達は丁度王都の近くにいた。


「ちょっと見学に行こうか」


 部外者が王都に入ることは許されていない。騎士団員でも滅多に入れない。多くの国民がそこに入ることなく一生を終える。そこはまさに人々が想像する幻レベルの場所だ。

 リョクチは芝生を踏みしめて王都に向かって歩き出した。私達もまた置いてかれないようについて行く。


「ん、騎士団本部こっちも騒がしくなりやがった。マジで、やけに騒々しいじゃねぇか」


 建物の窓ガラスを割って飛び降りる一体の怪物。その怪物が私達の目の前に現れた。

 人間の二倍はある大きさ。全身がツルツルしたゼリー状のもので、形が留まることはなくうごめいている。

 それを一言で言うなれば怪物モンスターである。


「おいおいおい。ゼリグロムじゃねぇの。こりゃ、厄介な敵が現れたな」

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