第13話 素晴らしい試合

 チクサが戻ってきた。


「紅白戦はチクサ、アゲ、サクラチームの勝ちだ。ひとまず総評を行う。参加者は次に活かし、見学者はそれを参考にして次に活かすように」


 サカエに視線が集まっていく。彼は真顔で淡々と言葉を発していった。


「まずチクサとカワナが最前線へと飛び出した。チクサは作戦として飛び出したが、カワナはそれがなく飛び出したのだろう。カワナにおいては、独断の行動で飛び出したものはいいが、あのままチクサとタイマンを張れば負けてただろう。そして、椅子とナゴが合流した頃にサクラと位置変えをしたことによって二対一を作り出した」


 カワナは一人隅っこで肘を立てながら耳を傾けている。格好つけているものの、耳につけたピアスが小刻みに揺れていた。


「カワナはチクサとアゲを二人相手取ることになった。一方ではサクラが不利になるはずだが相手は初心者二人。初心者なら例え二人でも勝てるっていう目算だな。ただサクラが苦手な"呪言"を使ったことは良くなかったな。倒しきれずに魔力切れとなった。得意な"変身"を使えば……いや、相手が男じゃないから結局意味なかったわ」

「相手が男でも使いません。あんな恥ずかしいのにはならない。一生使いたくない」


 椅子は「僕男だよ」と小声で呟いたが、ギルド内の活気にもみ消された。

 それよりもサクラの得意技は使わず、そもそも使いたくないとはどういうことだろうか。気にはなるが直接聞いたり探りを入れたりすることをする気力はない。


「椅子は良くぞサクラを打ち破った。その後のカワナとの合流からの閃光弾での仲間のサポート。アゲを打ち破ったことでの数的有利。攻撃力と機動力を活かした戦いは見事だった。が、やはりチクサの方が一枚上手だったな。チクサの技の手数を前に殺られるべくして殺られたって感じだ」


 チクサは相変わらずチャラチャラしている。


「全体的に見て素晴らしい試合だった」

「マスター。素晴らしい試合以外聞いたことないんすけど」


 横入りの突っ込みでドワッと笑いが起きた。温かみのある波が広がっていく。

「仮想空間を使ってくれたカミヤさんに感謝の気持ちの握手」

 サカエは終わりへと一気に畳み掛け、勢いある握手とともにこの試合はお開きとなった。


「さて、解散だ。それとリョクチ、カワナ、椅子、ナゴは集合」


 解散する一方で私達は集められる。

 私達はサカエやカミヤのいる机の椅子に座らされた。


「単刀直入に言う。試合を見て椅子をB級、ナゴをD級と見なすことにした。リョクチの念願の緑地の神殿捜索は各個人最低でもC級以上は必要、さらにはS級が一人以上」


 何の話だろうか。小声でリョクチに聞いてみたら、彼は小声ではない声で返していく。


「冒険したい場所があってな。念願の場所なんだ。で、今回の紅白戦は品定めの意味合いを兼ねていて、冒険の許可について審査する機会でもあったんだ」


 「冒険したい場所……」と小さく呟く。横にいる彼はその言葉を聞き逃さない。


「俺一人で冒険したことがあるんだが、その時に見つけたダンジョンが「緑地の神殿」だ。秘密の抜け道を通った所にある森の神殿なんだ。で、第一発見者は俺だから「緑地の神殿」と名付けた」


 緑地の神殿。

 新たな冒険の匂いが漂っている。


「調査として入った俺は、そこに住んでいたドラゴンと対峙しちまい敗走。無事逃げ延びたものの、再び調査するためには条件ってもんが追加されちまった」


 彼は笑いながら帽子を被った。


「情けねぇよな。国外へ行くのにそれ相応の強さが必要で、そのために依頼クエストをこなして鍛錬もした。が、やっぱり俺一人の力じゃ適わなかった。仕方ねぇから、強さを補うことも兼ねた仲間の募集に手をかけることにしたって訳さ。んで、その仲間がお前らだ」


 小さなため息が聞こえたような気がした。


「緑地の神殿の調査は最低C級以上のみで構成された三人以上。さらにS級が一人必要とする」

「今は俺とカワナA級、椅子がB級、ナゴがD級だ。調査のためには俺かカワナがS級になるか、誰かS級を引き込むか、それに加えてナゴがC級に上がることが必要だな」

「すみません。級を上げるためにはどうすればいいんですか?」

「まあ、依頼をこなしていけばいいだろう。特に誰かの付き添いでもそれなりに功績を挙げればランクは上げられる。詳しくはまた受付に言って聞いてくれよ」


 視線をカミヤへと戻した。


「まあ、そういうこった。うだうだしてるとに出られなくなるから気をつけな。じゃ、これで俺は失礼するよ。じゃあな」


 カミヤは帰っていき、それを機にここの集まりは解散となった。

 私は早速受付へといき、ランクについて聞きにいった。


 ランクとは──

 ギルドに所属する者各々に与えられた位であり、E級からS級までに割り振られている。上に行けば行くほど強さと名実を兼ね備えた実力者となる。

 ギルドなどには依頼などが送られる。基本的には個人依頼がほとんどであり、依頼難易度によってBからEまでのクエストランクに振り分けられる。そのクエストランク以上のランクがないとその依頼を受けられない。

 依頼を無事こなしていくとランクを上げることができる。簡単な依頼よりも難しい依頼をこなせば早くランクを上げられる。


 私は依頼をひたすらこなしていかなければならない。

 依頼はギルドの依頼掲示板から依頼を選択し、受付へといき許諾を押されてクエスト開始となる。


 私は早速依頼掲示板へと行った。

 椅子がよってきた。


「ねえ、一緒にこれやりませんか。このB級依頼。これクリアすりゃ手っ取り早くC級になれると思うんです」

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