第14話 晴天の霹靂を略すと「せいへき」

 椅子が勧めた依頼を私は受けた。

 内容は野に放たれた行方不明の危険なペットを見つけ出し主人の元へと届けることだった。

 依頼届けを受付に持っていき一連の作業を終え、実際にクエストが始まった。詳しい説明を依頼主のお婆さんがふくよかな体を揺らしながら説明していく。


「アタシの可愛い可愛いスケルトンちゃんとはぐれていなくなってしまいましたの。早くしないと……スケルトンちゃんに何か起きたらと思うと夜も眠れませんわ。ということで、早く見つけてらっしゃい」


 半ば強引的に似顔絵を渡され捜させられる。

 ペットのスケルトンは豚のような見た目だった。備考には逃げる時に透明になると書いてある。


「透明になるのか、こりゃ厄介ですね」

「そうね、簡単には見つからなそうね」


 ピンク色の体に青と緑のラインの入った服を着せられている。とても重量感があり豪華さがただ漏れている。どこか偉そうな雰囲気が紙一枚から溢れ出ていた。


「けれども、こんなヘンテコりんな豚すぐに見つかりそうなんだけどなー」


 人が溢れる城下町。

 ここ「蒼の国」は主に五つの区画が存在している。その中で中心となっているのが北区である。

 王とその一族の住まう王都。その周りは壁に囲まれている。そこに隣接して騎士団。そこから少し離れた所に城下町が開かれている。商業者が寄り集まり店を開き、それを目当てに多くの人民が集まる。国民の殆どがここ北区に集中している。


 人間の織り成す小さな隙間狭間。

 活気ある景色が当たり前に引き落とされて見慣れた風景となっている。


「流石に北区にはいないよなー。人が多くて見つかりにくいと思いましたけど、そもそも豚がいたら逆に目立って人集りになってる気がしますしね」


 北区は政治の中心であり王都がある。その周りに人々が多く集まっている。もし北区にいないのであれば他の区域で捜す必要がある。

 その西側には住宅街が広がっている。ほとんどが家で埋め尽くされた西区。

 反対側の東側は荒地が広がっている。ギルド試験でも使われた荒野が印象的な東区。

 東区の下に広がるのは自然豊かな森が広がる中区。動物や植物が豊富である。

 中区の横、西区の下側はポツポツと人の住む村が広がっていることから村区と言われる。

 北区、西区、東区、中区、村区。この五つに分かれている。


「北区にいないとすれば、やっぱり人目もつきにくく入り組んでいる西区かな」

「それ以外にいるとすれば骨が折れそうね」


 私達は西区へと向かうことにした。

 ついでに近くの出店に寄り、「蒼の国」名物餡子芋を買うことにした。

 私達は店の列に並ぶ。最後尾にいる豚の後ろでじっと待つ。


「えっ、豚?」


 よく見るとその豚は捜し求めていたそれであった。


「ここにいるがやっ!!」

「まさか、こんなにも浸透しているとは。今頃ですけど、椅子の僕が溶け込んでるんだから豚も溶け込んでて当然でした」

「そうね、魔法で変身なんてことができるから驚くことでもないもんね」


 豚が逃げ出した。


「それどころじゃない。逃げたわ」


 人の合間を潜り抜けて追いかけていく。

 豚は西区へと向かう。段々と人気は少なくなっていく。

 路地裏を走る豚、とその後ろを駆けるナゴと椅子。

 逃げる豚と追いかける二人。

 逃げる豚と追いかける二人。

 逃げる豚と追いかける二人。

 逃げる豚と追いかける二人。

 逃げる──


 私達は豚を見失ってしまった。

 対象を見失い途方に暮れてしまう。


「重い……。全然動けない」

「そうね。体が重くて追いかけるどころじゃないわ。今日は一旦終わりにして明日に持ち越しましょう」


 夕焼け小焼け、オレンジの光に打たれながら依頼主の元に方向へと向かった。

 偉そうな態度で私達を待つ彼女。

 身につけている装飾品が音を出していった。


「あらぁ、今日はありがとねー。見つけてきてくれてぇ。ちゃーんと高い報酬つけとくわ。さあ、行くわよ、スケルとんちゃぁーん」


 機嫌良い依頼主は何故か笑顔で近づいてきた。

 ふと姿を現していく豚。それは椅子の上にどっぷりと腰を下ろし偉そうに縦ひじをついていた。


「嘘やろ!? 椅子の上にいるって嘘っ!」


 抱かれて怪訝そうな表情を見せる豚はそのまま彼女に引き取られた。

 取り残された私達はギルドへと向かう。


「豚が座ってるなら言ってくれれば良かったじゃん」

「いや、言ったよ」

「言ったの? いつ」

「えーっと、見失った後、何かが座っていて、「重くて動けない」って」

「分かるかぁ!」


 後日。

 ギルドの受付にて今回のクエスト成功の件について報告を受けた。


「報酬金は後々送らせて貰いますね。それはそうとご報告があります。実は……」


 受付嬢は少し口元を萎ませ薄笑いを浮かべながら説明していく。


「このクエストはB級ではなくA級、S級レベルのものでした。逃げ出したペットの保護の依頼で、そのペットが凶悪レベルのモンスターだったんですよ」


 言っていることに頭がついていけず「えっ」と垂れ落ちた。


「ヤバ豚と呼ばれる種のモンスターで怒ると町は一つ軽々消えると言われており……貴族らの権限で匿われている危険種だったようです」


 つまり、スケルトンちゃんは危険なペットだったということだろうか。


「今回のクエストで被害を一切なく達成したようで本当に素晴らしい結果です。S級達成として経験値が入り、貴方様は今日よりC級ランクとなりました」


 てんやわんやで私は目標のC級になることができたのであった。

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椅子が旅しちゃ駄目ですか? ふるなる @nal198

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