第12話 職業
「この界隈わね、酷しいのよ。弱肉強食、男の社会。女は、その中で生きていくためにはそれ相応の強さが必要なの。人を傷つけられないようじゃ、生きていくことすらできないわ」
涙が回収され落ちることはなくなったが、今度は正面を見ることができなくなっていた。瞳は床でいっぱいとなる。
「ったく、サクラちゃんは厳しすぎるよー」
「厳しくない。その子のことを想って言っているのだから、優しい方じゃないかしら」
その冷たさが私の体を指先から冷やしていく。
「あんま気にすんなよ。さっきも言ったように回復してくれるだけでも結構助かるしな。それと、サクラのことは許してくれ。アイツは苦労人だからさ、お前のことを思って言ってるんだ。まっ、内容はキツいけどな」
とりあえず私は近くの椅子に座った。
目をつぶり無を見ると少しは落ち着いていく。
「考えて起きなさい。このギルドにいるべきかどうか」
私は本当にこの道を進んでいて良いのだろうか。考えても考えても駄目という選択肢ばかりが現れていく。そして、諦めてその道を進もうとするとその道を通せんぼするもう一人の自分が現れ邪魔をする。
そうやって行く行かないを繰り返す間に、その道はまるで迷路のような存在に変わっている。
悩みが悩みを引き連れてくる。
私は出ないため息を吐いた。
「よお、姉ちゃん。少しは用が済んだか」
カミヤと呼ばれる男だった。
無心になるよう務めて対応する。
「まだ戦いは続いている。仲間の有志は見といて損はないぜ」
彼は魔法を手に込めていった。
「じゃあ『可視化』。目を瞑れば紅白戦の様子が見れるぜ」
私は目を瞑った。
私の頭の中に紅白戦の様子が浮かんでいく。
カワナが風の魔法を放ち、チクサと中距離戦を行っている。そこに、アゲが遠距離からカワナの邪魔をする。
『当たれ!』
『風の斬撃』
アゲの持つバズーカから放たれた砲弾がカワナを追尾していくが斬撃が砲弾を切り落とす。
「隙だらけじゃん。そんなとこも可愛いよ」
チクサが鎖を従え近づいていく。
鎖を回して攻撃する。カワナは何とか
そこに椅子が合流する。
勝負は二対二になった。
「粘られちゃったっすね。目算ではカワナちゃんを
お互いに睨み合い膠着状態となる。
「『注射針』『チューブ』『
どこからともなくチクサの周囲を漂う透明の管。その先には鋭い針がくっついている。
「気をつけろ。あの針には刺されるな。一度きりの攻撃パフか大回復されてしまう」
「了解。気をつけながら接近戦しますね」
椅子が走り出す。それに向かって進む針。
椅子は何故か脚の裏に噴射気があり、空を舞っていく。空中で追尾する管針を避けて宙を舞う。
「僕は椅子だから、足からジェット噴射をすることができるんだよ」
そんな訳が無い。いつから足を噴射口に変えられる機能がついたのか突っ込みたくなるが、そこは見ているだけだから口出しなどは一切できない。
椅子から出る触手につく銃。空中から自由自在に放たれる。
チクサは銃弾の軌道上を避けるように軽やかに移動していき、攻撃を全て避けた。
椅子は銃を魔法か何かで大砲みたいなものに変えた。
「残念ながらそんな攻撃効かないっすよ。『超
チクサの周りに現れるバリア。彼にはもう砲撃は効かない。椅子はこの状況どうするのだろうか。
椅子はバリアに向かって砲弾を放った。迷いなく放った。
バリアに当たった砲弾は強烈な音と光を放って周りを光で包んだ。その砲弾は巨大な閃光弾だったのだ。眩い光で視界を奪う。
一瞬のフラッシュが終わった。
チクサは変わらずその場に留まり、針は追尾機能を使って変わらず追いかける。椅子は追いかけられながら空中で避けていく。アゲは大砲を構えてサポートをしようとしている。カワナはそのアゲを狙ってフラッシュの間に距離を詰めていた。
「しまった。これはまずいぜっ」
「終わりだ。我が闇の
風が固められて作られた鎌がアゲの首を掻っ切った。そして、アゲはその場から消滅した。
目を開けるとそこにはアゲがいる。
私は再び目を閉じた。
椅子は脚を曲げる。
そのまま回転すると、サーキュラーのように鋭い攻撃力が増していく。針を避けてチューブを避けてチクサへと向かった。サーキュラーがチクサを狙って落ちていった。
「いやぁ、これは参ったっすね。なかなかにやるじゃないっすか、椅子くん」
後少しでチクサに当たる。そこでチクサは小さく『チェンジ』と呟いた。
カワナの体が真っ二つに割れる。すぐにその体は消失した。チクサのいた所にカワナが、カワナのいた所にチクサが、居場所を変えた。それにともないチクサに当たるはずだった攻撃がカワナに当たったのだ。
「残念っすね。ナンバースリーの座は伊達じゃないっすから。負ける訳にはいかないよ」
追尾していく針が椅子を貫いた。針は魔力を奪うように吸い取り、管を通っていく。
「『チャージ』。動揺してる時間が敗因っすよ」
チクサは魔力が漲っていき、オーラがただ漏れしていく。攻撃を受けてしまえば一溜りもないだろう。
椅子もそれを察知したのか一撃で倒そうと瞳に強い意志を込める。脚の噴射口が鳴いている。
膠着状態となる。
先に動くのはどちらか、私は目を瞑りながら唾を飲んだ。
先に動いたのはチクサだった。
手を前に出す。それを見て椅子も飛び出した。
「終わりっすね。『超レーザー』」
放たれる強烈な極太のレーザーが椅子を巻き込んで進む。地面を削り進んでいく。その強力な一撃が椅子を脱落させた。
レーザーの放たれた後が残る。
地面から煙が湧いていく。
無音の中で勝利の余韻を噛み締めたのはチクサだった。
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