第10話 紅白戦
始まった紅白戦。
空を飛んでいく一つの砲弾。似せかけの偽鳥とともに飛んでいく。水色の海を掻き分け進むそれは私達を見るや否や軌道を変えてきた。
砲弾が私達を狙って進んでいく。
『
風が集まっていく。その風が集い固まって矢になる。風の矢が砲弾を射った。その途端に激しい風と美しい音色が広がった。
カワナの左耳につけた風型のピアスが揺れる。
「始まりの鐘は鳴らせて貰った。気をつけろ。どんなに遠くても逃げても追尾する砲弾が来られるぞ。対処法は相殺すること。以上」
目の前に立ち塞がる巨大な岩。登っていくには無理がある。
『
しかし、人間ではなく鳥なら軽々しく越えられる。カワナは一人で早々と向こう側に向かっていった。
「僕らには通れないから回り道しよう」
「そうね」
私達はその巨岩の付近を進み、回り道をしてこの岩の先へと進むことにした。
岩はごつくて冷たい。とても偽物の岩とは思えない。時間をかけて先へと進む。
鳥が騒がしく逃げていく。
中央へと近づけば近づくほど暴風と斬撃の音が強くなっていく。
もう少しで中央にたどり着く。
『風の斬撃』
「『
何本かの唸る鉄製鎖と無数の風で作られた飛ぶ斬撃がぶつかり合った。
私とは次元が違う。鞭や斬撃の嵐がそこに渦巻いているように見える。近づくことなどできないし、そもそも遠くへと退かないと巻き込まれてしまいそうだ。
「やはり我が
「そんなことより、この試合終わったら二人で飲みにいかない?」
激しい争いが中央の台地で広げられていく。
『
『超乱撃』
風による鋭い牙と目では見えない激しい攻撃が衝突する。お互いの攻撃は相殺した。
「おやおや、可愛い子と椅子君がきちゃったね。けど、二人の相手は桜ちゃんにお願いなんすよね」
チクサが無為に走っていく。
姿勢を低くして攻撃に備えながら進んでいく。
『風の斬撃』
飛ぶ斬撃を避けながら着々と近づく。
「カワナちゃんは強いっすからね。やるなら二人で当たるのが合理的っすもん」
「なるほどな。魔界と異界に分け隔てるつもりか」
チクサがカワナの目の前にきた。そして、優しく手で触れる。
「さて、場所を変えるっすよ。『チェンジ』」
チクサとカワナが一瞬にして消えた。代わりに、一人の女が現れた。瞬間移動。三人はテレポートしたのだ。
「作戦通りに事が進んで怖いわね。ひとまず先輩として、サクラが直々に現実の厳しさを教えてあげる」
椅子が前に出ていく。
取り残されるのが嫌で私もすぐに追いかける。
巨大な岩に挟まれた平らな土地。
そこで私、椅子とサクラが対峙する。
そこへ、浮遊する大砲が私達を狙って飛んできた。
「追尾する砲弾か。これは相殺するのみ」
椅子は触手を繰り出して、その先についた斧で真っ二つにした。
「あら。呪言「当たれ」の対処法は教えて貰ってるのね。まあ、そんなことよりも目の前に集中しなくちゃね」
手首につけた桜色の可愛いシュシュを手に取り長い髪を縛っていく。覚悟を決めたようだ。彼女は鋭く睨んでいく。
「さあ、行くわよ。『桜吹雪』」
辺り一面を覆う桜の花びらが彼女を隠していった。私達も桜花びらに視界を奪われた。
「喰らいなさい。『刺され』」
桜の花びらが刃みたく鋭い存在となって、皮膚を斬り裂いていく。刃の雪が無数に切りつけた。
全身が軽く擦り切れていく。
痛みよりも痒みを強く感じていく。
「ナゴ。羽ばたきで吹き飛ばしてくれ」
椅子の声が聞こえる。
目の前には桃色の世界が広がっている。桃色の中で私は魔法を全身に流し込んでいった。
『
一頭身に変わった体。私は翼に変わった腕を強く振り下ろす。力を入れて何回も上下にさせる。
桜花びらは突風によって散り散りとなり飛ばされていった。
視界が桃色から水色に戻った。
背後から椅子が勢いよく走ってきた。五つの触手はそれぞれの武器を持っている。斧、銃、刀、槍、マシンガン。斧が真っ二つにしようと振られ、銃や刀、槍が急所に向かって放たれ、マシンガンが適当に乱発しようとする。
「これはヤバそうね」
サクラが髪を縛っているヘアゴムを手に取った。長い髪が激しい遊風にサラリと
彼女は輪ゴムのように扱い、両手指を使って伸ばしていく。そして、片手の指からゴムを外すと反動で前へと飛んでいく。
「なんだっ、これはっ」
「武器としても使える髪飾りシリーズ。吹き飛びなさい」
鉄砲のように放たれたそれは椅子を巻き込んで遠くへと飛んでいく。椅子はゴム諸共遠くへと飛ばされ、巨岩へと叩きつけられた。
衝突した所から砂煙が湧き立ち、椅子の安否が分からない。
私は鳥から人間に戻った。
椅子のことが不安で戻ろうとすると、サクラが一言「自分の心配しなくていいの」と放つ。
彼女は装備しているミニショルダーから武器を取り出した。
二つのヘアクリップだった。
一つは桜柄でもう一つは空色のものだ。
「二つのバンスクリップがアンタを噛みちぎるわよ」
鋭い刃が牙を剥く。
ここを何とか切り抜ければならないが、鳥に変わって対処できる気は一切しない。
さっきから足元が気になる。そこには椅子が吹き飛ばされる時に落とした刀が落ちていた。
「私だって……」
その刀を拾い上げて刃を敵に向ける。
手が震えていく。身震いする刀。私はこの刀を振ることができなさそうだった。突然襲う恐怖が徐々に拡大していく。
「震えてるわよ。そんなんで勝てるかしらね」
サクラが襲ってきた。私も迎撃のために刀で迎え撃とうと思った。だが、そこで想像が働いていった。
私が振ってサクラが血を巻き上げながら二つに裂かれていく。そこで放たれる絶叫。血の雨の中で悲しくも憎々しいという目で私を見る。そんな未来が私の頭に流れ込んできた。
恐い。
私は刀を振ることなどできずに、地面にそれを落としていた。
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