第6話 風魔道士
「まあ「蒼の国」に限ったことじゃねぇが、国から出ることは基本許されてねぇ。が、一部の職業だけはそれを許されてる。ギルドも一応許されているんだが国の許可が必要だ。国の外に出る、もとい旅をするのは国の許可を貰わないといけねぇ」
リョクチは三杯目の焼酎を飲み干した。
「俺は一人で調査についてやってきたが、やっぱり限界があった。まず国からこのギルドを認めて貰わないといけねぇし、さらに俺の実力も認められなければならねぇ。それだけじゃねぇ、一人だけということで遠くへの旅は許されなかったんだ」
旅をしたい。そのためにはいくつかのタスクをクリアしなければならないようだ。
ギルドと個人の実力、そしてチームとしての実力が国に認められなければならない。夢のためにやらなければならないことが目に見えてきた。
「未知なる土地を旅してぇんなら、まずは実力をつけることと、チームを結成することが必要だな」
「はい。頑張ります」
「んで、だ。チームの結成について提案がある。同じことを繰り返すが、俺とチームを組まないか」
なるほど。
私は彼と一緒のチームとなることに傾倒していくが、しかし即決することはできなかった。優柔不断な自分が選択肢を惑わせる。
「さあ、どうする?」
「ずるいっすよ。こっちだってチーム集めたいからね」
「そう言ったって、お前らは旅するチームじゃねぇだろ」
「まあ、そうっすけど」
優柔不断な自分が自分を不安にさせていく。ここで「はい」を選んだ時、「いいえ」を選んだ時、どちらを選べばいいのか。そのビジョンを見通しても結局は選べない。
「保留にしてもらってもいいですか」
そうして保留と言う形で間を取る。どちらでも大丈夫なように。
「まあ、いいけどさ。後で組もうと思っても組めない時もあるかも知れねぇ。思いだったが吉日ってな。まあ、これ以上とやかく言うつもりはねぇわ」
私はいつもこうだ。優柔不断で迷っているうちにそのまま時間だけが過ぎていく。そんな自分に嫌気が指して一念発起で変わったのではなかったのだろうか。変わりたいのに、芯は変わっていなかった。そんな自分が嫌いだ。
「私は、私は……」
思いだったが即日。今決断しなければ、生まれ変わらなければ、私は嫌いな私のままだ。私は目の前にある硬い壁に突撃することに決めた。
「リョクチさん、ナゴと一緒にチームを組んで下さい」
「そう来なくっちゃな」
隣にいるチクサはしょんぼりしている。
「はあ、折角の可愛い女の子がチームに入ると思ったのに。チームに欲しかったなー、かわい子ちゃん」
「サクラちゃんで我慢しなよ」
「えー。あれはかわい子ちゃんじゃなくて怪物……」
そこに現れた女の人。彼女が笑顔で彼の近くに顔を出した。
「ねぇ、何の話してるのかなぁ~」
チクサはサクラの拳の餌食となり紙の海の上にプカプカと漂った。その浮かぶ瀕死体を横目に私とリョクチとの会話を再開した。
「これでチームは結成したが、旅をするには最低でも三名、強いて言うなれば五名のチームであるべきなんだよな。もう少し人が欲しい」
現在はナゴとリョクチのチーム。
彼は両手を広げた後、片手の人差し指だけをピンと伸ばした。
「そこでスカウトする必要があるんだ。このギルドは現在十一名。もちろん俺らも入れてな」
続いて指を動かして数字を作っていく。
「スカウトするに当たって、まずギルマスのサカエさんは無理だ。それと四人が既にチームを組んでる。残る候補は四人だが、ギルド最強の座を争う二人は正直無理だと思う。そうすると残る候補は二人のみ」
彼は顔色変えずに六杯目のアルコールを体の中へと入れていきながら口を動かしていく。
「一人はそこの風魔道士カワナ。俺も他の奴らもスカウトしたことはあるが彼女は一切受け入れることはしなかった。となると、残るは一人だけだ」
一人と言ったが、人として数えていいのか分からない存在に人差し指が指される。
「アイツだ。椅子を誘いたい。まあ、同期の
椅子を私達のチームに誘うことになった。私はリョクチに言われ、スカウトのために立ち上がった。
紙吹雪の残骸の中を進んで行く。
その時、瞳に黒フードの人が映る。一応、彼女にもスカウトをしよう。躊躇ってはいけない、の気持ちが先行していく。
いつの間にか私は彼女の前に立っていた。
一人離れ小島で座る彼女に話しかける準備は整った。
「カワナさん。少しよろしいでしょうか」
「この僕に何のようかな」
「同じチームに入りませんか。私達と一緒に旅を目指しませんか」
どこからか「おいおいカワナの方を誘いにいきやがった」と驚く声がした。
カワナは顔色一つ変えていない。どう考えているのかも分からない。
「興味ない。僕にはやるべき事があるんだ。我に与えられた使命が。それに旅をして何が楽しい」
「旅は……何があるか分からない世界を見に行ける。財宝が眠る山があるかも知れない、
突然、カワナが立ち上がった。
片手を片目に当てて隠すような仕草を取る。それが何を意味するのかは全く分からない。
「そうか、魔王がいるのか」
「いや、魔王の住む塔は例えで言っただけで」
彼女は既に
「いいだろう。チームに入ろうではないか。闇の魔道士として、魔王を倒さねばならぬからな」
こうして私はリョクチとともにチームを作り、カワナを仲間にした。
「嘘だろ。誰もがスカウト失敗したカワナを普通に仲間に引き入れやがった」
なんと言えばいいのか私には分からない。
あまりの個性的な仲間に苦笑いを向けた。
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