第5話 終わりと始まり
「新メンバー、椅子とナゴに乾杯っ」
祝福の花吹雪が舞散った。
私の新しい居場所。透明になりかけた私から脱却して新たな色を身にまとってここに立つ。この色が透明になればなるほど求められなくなる。もう前の仕事とは同じ轍は歩まない。私は胸に強く決意した。
「さあ、祝砲を上げようじゃねぇか」
男が大砲みたいなものを持ってくる。ローラーが鳴いていく。それから大量の紙吹雪でも出るのだろうか。
「おい、アゲ。それは何だ」
「このギルドさぁ、全然メンバー増えねぇじゃん。だからさー、新メンバー加入祝いは盛大なものにしたいと思い、前々から準備してたんだよ。この祝砲をな」
「なんだろうな。不安しかねぇよ」
サカエはどこか皺を寄せている。
大砲の先が真上を向く。
「さあ、新たなメンバーを祝い祝砲だ!」
耳を
バァン、そんな音が広がった。
開いた天井から落ちていく瓦礫の砂。大砲から立ち上る火薬の匂いの煙。言葉を止めた人間。
さらに、不安な音が続く。それを言葉で言うならば、ヒュウウーーンという音だ。
「ふざけんなぁ!!」
またもや一部の天井が破壊される。落ちてきた花火の残骸が天井を貫通し床を壊す。落ちてゆく残骸が建物を壊していく。
「おい、アゲ。何、ギルドをぶっ壊してくれてんだ」
残されたギルドの残骸。その中で私達は立ち尽くした。皆が視線を大砲を上げたアゲに向ける。
「いやぁ、花火ってこんなことになるんだな。てへっ」
「アゲ。あんたのせいで……。てへっ、じゃないわよ!」
「すまねぇ、サクラさんっ」
サクラという人がアゲという人を蹴り飛ばした。それからはてんやわんやでまさに
「すまねぇな。本当にこいつらは馬鹿ばっか何だ。まあ、とりあえずこの空気に慣れてくれ」
この国では女が戦闘職─例えば、ギルド─に入ることは異端とされる。しかし、フィロソフィアは女も受け入れた。人々はそれを見てフィロソフィアに賎しい視線を向けた。
五つある内のこのギルドは賎しい視線などを気にしなかったりそれでも入ったりするような変わった人達が集まるギルド。もちろん私も女なのにギルドに入った変人だ。
「賑やかで楽しいです」
ここで一生を過ごすかも知れない。だからこそ、早くこの空気に慣れなければ。私はカオスの中へと身を投じていった。
次の日、私達は建物の補修工事に勤しんでいた。
「すまねぇな。ギルド最初の仕事がこんなんで。ほんと、すまねぇ」
仲間たちと一緒に共同して破れた穴などを埋めていく。その作業が何となく楽しいような気がしてくる。
新しい仲間たちとの他愛ない雑談を交えながらの作業を繰り返して何とか工事は終わった。
ツギハギが目立つギルドの中で打ち上げをする。
「おい、昨日みたいに打ち上げ花火は上げるなよ」
グラスに注いだファジーネーブルを唇につける。香りと味を堪能しながらくだらない風景を眺める。
横に座ってきた外見からチャラチャラした男。
そっと手を伸ばして腰に手を当ててきた。そこからすっと下へと移動させたので本能的に手を振り払った。
「ナゴちゃん、一緒にどうだい」
私よりも若そうだ。言動と見た目からナンパ癖があるに違いない。
「誰?」
「俺はチクサ。ここで三番目に強いんっすよ」
「一番じゃないのね……」
「グサッ」
グサッ。それは心にナイフが刺さる音。それを自ら言うとのを見て苦笑いを浮かべていた私がいた。
「ナゴちゃんは彼氏いるの?」
「今はいないけど」
「それならさ……」
そこにリョクチがやってきた。
「おう。少しいいか。ナゴに用がある」
「いやいやいや、今ナンパ中っすよ」
普通それを言うか。
突然なる出来事に多少なりとも身を引き締めたようで、無意識下で持ってたグラスを台に置こうとしていた。
「止めにきた訳じゃねぇからな。とりあえず、一緒に飲み明かそうや」
焼酎の入ったロックグラスを口に注いでいく姿を横目に、再びグラスの取っ手を軽く握った。
「聞いたぜ。旅をすることを目的に入ったんてな。俺ァ、未知なる遺跡や洞窟などの調査を目的として入った。意外と似た者同士じゃねぇの?」
未知なる土地を切り開いていく旅と、未知なる土地を切り開いてその先にある未知なる存在を調査する。私の夢と彼の夢は序列的な関係性があった。
「それで本題だ。俺とチーム組まないか」
「あっ、ずるいっす。入るならウチらのチームの方がいいっすよ」
激しい争いをしている二人に挟まれながらカクテルを軽く口に入れて言葉で間を紡いだ。
「チームってなんですか?」
「ああ。そっか。まだ分からねぇよな。一人で仕事をこなすこともいれば、数名集まって仕事をする場合もある。数名集まって仕事をする時に組むグループ。それがチームだ。チームを組むことによって、依頼の幅が広がったり、依頼の成功率も多少なりとも上がったりする」
「チームを組めば連携技を使えるっす。一人じゃできないことも仲間となら可能かも知れないんすよ」
仲間か。
仲間と一緒に旅をするのは憧れるな。私の瞳には明るく振る舞う九人が映っていた。
「見てて下さい。僕は椅子だから魔法は使えないけど、こんなことができるんです」
椅子からニョキっと出てきた触手には巨大ドライヤーみたいなものが付いており、そこから紙吹雪が大量に出てきた。
豪雨のように落ちゆく紙吹雪がギルドを埋め尽くす。
「おい、お前ら。ギルドを紙だらけにするなぁ。誰が片付けるんだぁ!」
紙のきりはしの海がギルドの中に出来ていた。その海に足を入れて笑いながらこの温かいオーラとファジーネーブルを堪能していった。
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