第8話 癖凄戦闘スタイル
緊張感が広がってきた。
「こいつはゼリグロム。人間を無差別に襲う兵器生物だ。正直、こいつが現れることがおかしいんだがな。まあ、いいや。丁度、こいつらに見せてぇもんがあったんだ」
リョクチが前に出た。
ツバ付き帽子を深く被らせた。
「こいつは倒さなきゃいけねぇ危険兵器。俺が倒す。よう見とけよ。これが"呪言"だ。これが俺のスタイルだ。『
いきなりの指パッチン。指の音が騒がしい空間に広がった。それを聞いてか少数名の騎士団員が近づいてきた。
「『リズム』を取ろう。さあ、俺のラップを
どこからともなく音が流れてくる。一秒事に膝を曲げてリズムを取りたくなるようなビートだった。
その間に襲いかかってくるゼリグロム。彼に向かって思いっきり太い腕を振り下ろした。それに対して手を添えるように宙に置きガードのような格好を取っている。
受け止められる訳がない。降ろされる腕が骨を折り、体をペチャンコにしてしまうだろう。助けに行かないと死んでしまうと思っても、恐怖と躊躇いが体を金縛りにしていた。
それなのに彼はマイペースにラップを奏でていく。
「
左手に触れると否や、ゼリグロムは向かっていく方向とは逆方向へと吹き飛ばされた。ただ左手を添えただけのリョクチは無傷である。
「
リズムがリョクチ優勢の流れを生み出していく。
「さあ、次のビートを流すぜ。俺の速さについて来れるか。俺の
今度は少し早めのテンポとなった。
立ち上がりかけているゼリグロムに対して襲いかかっていく。
「もう 止まれない、止まらない、とめどない、まさに特急列車。から 途切れない、終わらない、終わらせない、攻撃繋がる連鎖。現在、超テンポのビート。このスピードでぶつかりヒット」
しかし、何も攻撃を与えていない。
何も分からず襲いかかってくる怪物。それの腕が殴りろうと力を溜め込んだ。
「余所見は駄目だぞ。ここは戦場。そこは線路上。今気づいたのか? でも遅い。リョクチ列車はもう襲い。ほら、すぐに『
突然何もない所からゼリグロムに襲った強力な衝撃。何かとてつもない速さで進む車などに
地面で動けないままゼリーのような体は崩壊していき土に還っていった。
「威力が違うんだ。素手よりも硬い鉄の塊。攻撃力は高い。さらに、速度を力に変えて攻撃力を上乗せ。電車の突撃はシャレにならねぇぜ」
周りにいた騎士団員らが拍手喝采をあげる。
彼はそれを受けても何ともない様子で
「さあ、二人とも。見てたか。俺が言いたいこと分かるか」
ラップに呪言を混ぜて戦っていた。その魔法はゼリグロムを
リョクチは無傷。上手な戦い方に思わず口を開けっ放しになりそうだった。
リョクチは背中を見せて伝えた。
呪言とは何かを──
「つまりは、電車の衝突はシャレにならんから踏切が閉じ始めたら無理に行っちゃ駄目だよってことだ」
「いや、なんで!?」
顔を見ても冗談かどうかは分からない。
「というのは冗談で。俺のスタイルは独特だから分かりにくかったと思うが、呪言は言葉を選んで放つことで強力な効果を生むんだ」
冗談だったようだ。彼は先程の戦闘を何事もなかったかのように振る舞っていく。
「言葉一つ一つには
続けていく。
「さっき見たと思うが呪言はその場その時で有用な言葉が変わる。それを吟味しながら、さらに言葉の大小も考えなきゃなんねぇ。つまり、扱うのも説明も面倒くせぇ存在なんだよなー」
私達は騒々しい中、留まることに抗ってギルドへと戻った。
後々聞いたことだが、「蒼の国」のみが持っている生物兵器ゼリグロム。それらはそれぞれカプセルの中に閉じ込められている。十体分のそれが入ったカプセルが何者かによって盗み出され、その中に入っていたゼリグロムが王都や騎士団本部にばらまかれたのだ。
被害は建物にのみで収まり人的被害は出なかった。騎士団のうち特級部隊と呼ばれるエリート集団の活躍とされている。
今回の事件で国に内通者疑惑が噂されていく。そのせいで騎士団内部は混乱に陥った。
その影響はギルドにも及んだ。
「国の許可が一時停止している以上、特別依頼はできなくなった。その間は国内の通常依頼をするということで」
例えば国外に行くには国の許可が必要だが、混乱のせいでその許可を出せなくなっている。それにより許可が取れず国外には行けない。
「まあ、けど、それじゃ退屈だと思うので、紅白戦をしようと思います」
フィロソフィスの面々が一同に集まって、サカエに注目を集めていく。
「チクサチームと新設されたカワナチームの二つで紅白戦を行う。チームについてはもうこちらで決めてあるので、ご理解をお願いする」
用意される板。そこには
いや、何故ナゴの写真が貼ってあるのか。推測は出来たが、信じられずにいた。嘘でしょ、と。
「ええ、チクサチームはチクサ、サクラ、アゲ。カワナチームはカワナ、ナゴ、椅子。フィールドは岩だ。時刻は……」
紅白戦。
私はまだ戦いに置いて未熟なのに、そこに出ることになっていた。
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