【了】

「・・・それで、警察には届けたのか?」

「・・・相談はしたけどさ。手紙だけじゃ動きようもないって言われて、相手にされなかった」

 久しぶりに会う友人の顔は、どこか影が差していた。

「そっか。ストーカー被害って、警察はあんまり真剣に動いてくれないっていうけど、あれ、本当だったんだな。それに、か弱い女の子ならまだしも、お前、大の男だもんなあ」

「どうすりゃいいんだよ。一週間おきに、必ず届くんだ。郵便入れを塞いでおいても、どういうわけか、中に入ってるんだよ」

 友人は頭を掻き毟った。髪を洗っていないのか、すえたような臭いが漂う。

「お前さ、その・・・、この手紙の内容って、本当なの?」

「は?」

「いや、ほら、この虫を殺したとかさ、金魚を殺したとかさ、猫を・・・」

「・・・」

 友人はまた頭を掻き毟った。バサバサとフケが舞い、僕はコーヒーのカップを手前に手繰り寄せた。

「・・・誰だってするだろっ。虫くらい、魚くらい、子供の頃なんて、皆そんなもんだろうがっ」

「てことは、猫も?」

「・・・ああ」

 僕は最悪の想像をして、友人の顔を見れなくなった。

「・・・てことは、この四通目の、・・・人ってさ」

「言うなっ!!!」

 友人が立ち上がり、椅子が倒れた。物静かな店内にけたたましい音が響き、僕たちに怪訝な視線が集まる。

「お、おい。落ち着けって」

 俯きながら、友人をなだめた。顔は見れなかったが、肩で息をしている様だった。

「どうせ、アイツがやったんだ。アイツ、俺のことを恨んでるんだ。あのクソ女。俺のせいじゃない。アイツが俺に黙ってたせいだ。アイツが勝手にっ・・・」

「・・・とにかく座れよ。みんな見てるだろ」

 顔を伏せたまま促すと、友人はようやく椅子を起こして座り直した。

「・・・俺のせいじゃない、俺のせいじゃないんだ」

 

 その後、すぐに店を出て友人と別れた。

 肩を落として帰っていく友人の背中を、苦い表情で見送った。最後まで、友人の顔を、まともに見ることができなかった。

 五体満足の友人の姿を見たのは、それが最後だった。

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命からの手紙 椎葉伊作 @siibaisaku6902

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