第22話 斬新な解決策
そして話は続き、今度は生活保護自体に着手することになった。尤もさすがの朱莉と言えども国民の、それも生活保護受給者の批判そのすべてを回避することは実質的に言っても不可能である。
そのため出来うる限り負担を強いない形という体で、毎月あたり一人につき5キログラムの米を提供し、その分減額することにしたのだった。
「この資料によると、日本人は1年間に平均して約60キログラムのお米を食べています。これは月々に割り当てると約5キロ。それは金額にして1500円ほどなのでその分現物支給という形で調整したいとワタシは考えています」
「お米の分だけ支給額を減らすことになるのか……確か一人当たり6万円だか7万円だか支給されていたんだったよな?」
そう朱莉が考えた案とは、毎月消費するお米の分だけ生活保護者への支給額を減額するという案であった。
月あたり1500円、年換算にして1万8千円ほどと小規模である。割合にすると支給額の実質2~3%ということになるが、その分をしっかりと現物支給という形で補っているので反発も少ないのではないかと説明した。
「ふむ……確かに人間毎食何かしらは食べるわけですからそれを現金で受け取るか、お米として現物支給されるかその違いですから朱莉さんが仰ったとおり反発する意見も少なそうですね」
「それにですよ、先にTPPにて話をしていたお米の新規販路ルートにも繋がるわけです。この案どうですかね、みやびさん?」
朱莉は少し前のめりになりながら、みやびさんの返答を待っていた。
逆に言えばそれだけ自信があるとも言えるのかもしれない。
「確かに今現在日本国内での生活保護受給者は約210万人ほどです。そのすべての方々に適用することができれば米の出荷量も相当なものになるでしょうね。ザッと計算してみるだけでも1年間に12万6千トン相当分に値します。それに何より米の需要を満たすだけでなく、新たな雇用や後継者問題にも直接繋がりますから一挙両得となりますね」
みやびさんは電卓を取り出すとすぐさま試算をして、とても良いアイディアだと朱莉のことを褒め称えた。
「実はその他にもアイディアがありまして、食料品関連を取り扱う企業と提携して実質“無料”で食べ物を提供してもらいたいんです!」
「えっ? む、無料で、ですか?」
朱莉は褒められたことに気分を良くして、次のアイディアの説明してようと試みていた。
けれども『無料』という言葉にみやびさんは引っ掛かりをみせる。だが朱莉は動じずに説明を続けのだった。
「はい。試食品サンプルという形で毎月いくらか生活保護受給者に対して食べ物を回してもらえるようにしたらどうでしょうか? 新商品はもちろんのこと既存の商品だって大歓迎! そして食べてもらった人達にはその商品の課題点や問題点、それに肝心の値段や味それと量など事細かな項目として挙げてアンケートとして協力してもらうんです。これなら企業は一回あたり一人数万円もするアンケート調査をする必要もなくなり、費用コストの節約とともにあらゆる層から顧客データを“無料で”入手することができて両者にとっても都合が良いのではないでしょうか? それに企業として困っている庶民を助けるという社会的な名誉も得ることができますし、お金をただ寄付してもらうよりかは企業も参加しやすく、それと同時に商品も広く知ってもらえて販路拡大にも繋がると思ってます。もちろんそれはワタシ達、国を預かる者達に対しても決して損はない話になるでしょう」
「そうですね……機密情報の漏洩や情報の管理を徹底してもらうことを前提にすれば、乗ってくれる企業も現れるかもしれませんね。何より膨大な数の顧客データ、いわゆるビックデータを無料で手に入れることができるとなれば既存企業にとっても今後の会社存続における生命線と成り得るでしょうね。それに仰ったとおり、お金を寄付してもらう形よりかは商品提供によるコストカット、それに伴う社会的名誉も手に入れることができれば賛同する企業にとっては何よりも名誉なことになると思います」
朱莉の突飛なアイディアに対してもみやびさんは真剣に耳を傾け、そして頷きその考えに賛同してくれていた。
「それにですよ、生活保護受給者の方たちも何かしら社会の役に立ちたいと思ってるはずなんです! 今はまだ食料品だけのアイディアですけれども100円ショップや雑貨店、それに医療品や介護用品などの商品もモニター調査として参加してくれると面白くなると思うんですけど……」
「なるほど考えましたね。国民からの批判を避けるため、それを受給条件に義務付けるというのが首相であらせられる朱莉さんの本当の狙いなわけですね?」
「にゃはははっ。バレちゃいましたか? はい、そのとおりです。ワタシはこれに参加することを条件にしようと考えています。国や企業だって大勢の庶民に対して無料でご飯を食べさせることが出来るほどの経済的余裕はないですから、何かしらの形で貢献してもらおうと考えてました」
どうやら朱莉の本当の狙いはモニター調査に託けた生活保護受給条件に関する実質義務制度のようである。
これなら生活保護を受けていない一般国民からもしっかりと調査モニターという形の仕事や社会貢献しているとの大義名分を得られ、後ろ指差されることがなくなるとの考えらしい。そして先に述べた支給額減額制度と合わせることにより、噴出するであろう反対意見をも封じ込める作戦のようである。
「それにですよ、その企業向けビックデータ(?)って言うんですか、それも最初の1年だけ無料で提供するんです。それで目に見える成果が得られると分かれば、企業だって翌年から『寄付』という名目で更に商品で支援してもらおうかと思ってます」
「給付を受ける庶民はもとより、企業やそれに関わる雇用も更に生まれるでしょうね。まさにすべてがwin-winの好循環と言えます!」
朱莉とみやびさんは意気投合し、問題点を洗い出したり参加企業はどうするかなどの議論に白熱していった。
もちろんこれは生活に直結する事柄なので、すぐさま実行に移すトップダウンという形は取れないだろうが、これから先数年後の未来を既に見据えた話として朱莉もみやびさんも議論をしている。
またそれに伴いその草案を更に突き詰めてから補強すると、まずは数十世帯のサンプルを選び出して試験的に行うことを各省庁の大臣達へ通達し指示を出した。
国の方策とは単純に一つの物事だけに収まらず、少なからずすべてが見えない鎖のようなもので繋がっている。
だから国の舵を取るトップ達は常に大局的且つ冷静に物事を判断しなければならない。
それには一人の力だけでなく、周りに居る人の手も上手に借りなければ決して国もそこに住む国民も豊かにはならないわけだ。
後日、ここから既存の小売業に一石を投じるアイディアが生まれた。それはスーパーやコンビニなどを始めとした店において、POSシステムを活用した在庫管理である。既存のPOSシステムはレジでお客が商品を購入すると、そこで商品在庫管理と同時に購入者のデータを得ており、それが今後の販売戦略に繋がっていたわけである。
しかし、今回のアイディアとはあくまでも店側ではなく、購入者側である消費者に向けたサービスであった。スマートフォンなどのネットを通じ、お客が来店することなく、その店にどの商品の在庫がいくつあるか誰でも閲覧できるようになるもの。これならば、わざわざお客自ら店に直接足を運ぶ必要もなくなり、買いたい物がどの店にあるか一目瞭然となり、これまでせっかく来ても店に在庫が無かったという不平不満の解消策とともに、更なる購買意欲促進にも繋がることになる。
ECモールなどを始めとしたネット通販やネットスーパーでは既に取り入れられたシステムではあったが、何故か実店舗では活用されてこなかった。また専用アプリを入れることで、どの商品が店のどの場所にあるのか、リアルタイムで図面として表示され、案内する店員への負担軽減及び一種のアトラクション要素を加味し、更に顧客が増えるという好循環にも繋がるのは言うまでもない。
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