第11話 ファーストキスのお味は?
たぶんアレは俺がまだ小学校に上がる前の出来事ことだったと思う。
ある日突然、俺の両親が幼い朱莉を家に連れて来たのだ。
「一体誰なの……その子は?」
「ぅぅっ」
「ちょっと事情があってな、ウチで引き取ることになった。今日からこの家で一緒に住むことになった朱莉だ。祐樹、お前の妹になるから頼むな」
まだ幼かった俺は父親の言ってることが理解できず、また朱莉も人見知りなせいかその後ろに隠れていた。
「朱莉ちゃん。今日からあなたのお兄ちゃんになる祐樹よ。ほら、祐樹も挨拶しなさい」
「……ちっ。つきのゆうきだ、よろしくな」
俺は母親に促されるまま自分の名前を名乗って握手をするように右手を差し出したけれども、朱莉は怖いのか母親のスカートを掴みながらに顔を隠していた。
「ぅぅっ」
「ぅぅっ、じゃねぇーよ。お前、名前があかりって言うのか? 変な名前だな」
「コラ祐樹っ! 朱莉ちゃんになんてこというのっ! アンタこそ祐樹なんて名前じゃないの。人のこと言えないでしょうがっ!」
「あっ、いたっ! 母さん、殴ったね。親父にしか殴られたことなかったのにっ!?」
「なら、十分じゃないの」
俺は俺の名前を決めたはずの母親に自分の名前を貶められながらも頭を小突かれ、そう文句を口にすると再び軽く指で頭を弾かれてしまった。
自分の子供に対して理不尽なことこのうえない諸行である。けれどもそんなことを口にすれば、再び殴られるので黙ることにした。
「ふふっ……」
「お前……今、俺のこと見て笑ったのか?」
「あっ……ご、ごめんなさ……い」
俺が怒ったと思ったのか、幼い朱莉はそうたどたどしくも謝罪の言葉を口にする。
俺の方を不安そうに覗き込みながら今にも泣きそうな顔をしていたため何だか自分のほうが悪いように思えてしまい、俺は朱莉に向かって強がるようにこんな言葉を投げかけた。
「ちっ……まったく。いいよ、許してやるよ。ほら、謝るかわりに俺のことを『お兄ちゃん』って呼んでみろ」
「う……ん。お……兄……ちゃん?」
「……なんで最後疑問系にしやがったんだよ。まぁいい。そうだ朱莉、俺がお前のお兄ちゃんだ。そして今日からお前は俺の妹だっ!」
「うん……お兄ちゃん♪」
俺が隠れる朱莉へと右手を差し出すと、朱莉も笑顔になって俺の右手を握り返してくれた。
その日から俺と朱莉とは兄妹となり、今日までの毎日を過ごしてきた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「……あっ?」
「さっきから黙ってワタシのほうばかり見つめて……」
どうやら朱莉の姿にまだ俺の両親が生きていた時のことを重ねてしまい、少しの間ボーッとしてしまっていたらしい。
俺は慌てて何か言い繕おうとしたが、今の朱莉が昔出会ったばかりの頃の今にも泣き出しそうな顔と被ってしまい嘘は言えなかった。
「ああ……朱莉がウチに初めて来た日のことを思い出しちまってな」
「あっ……そう……なんだ。お父さんとお母さんのことを……」
俺は今こそ嘘を口にするべきだったと後悔してしまう。
朱莉は俺の両親、つまり朱莉にとっては育ての親のことを思い出してしまっていたのだ。
俺の両親は2年前の夏、仕事の都合で夫婦共々海外へと出張している最中に不運にも飛行機の事故に遭ってしまい亡くなってしまった。残されたのは俺と朱莉だけで他に肉親や見知った親戚もおらず、それからは両親が残してくれた遺産とともに兄妹二人だけで生活していくことになった。
最初こそ両親不在の朱莉がいるということで、児童保護施設の職員の方々が家を訪問することがあったが俺は既に高校を卒業していたため、俺は無謀にも朱莉と二人だけで生活していけるとその申し出を断り続けた。
そして朱莉にとっては2度目の両親を失ったことにより、その失望感から学校も休みがちとなって、それが原因となってクラスメイトともよくは馴染めずに家と学校、その両方で疎外感と孤独感に苛まれてしまう。
そんな朱莉の姿がとてもじゃないが兄である俺には黙って見て入られずに当時好きだったアニメやゲーム、それにラノベなんかを無理矢理に朱莉へと見せることにした。
始めこそ嫌がる素振りを見せていた朱莉だったが、唯一生き残った兄であるこの俺が目の前でわざとらしくも「これは面白い! いま見ない後悔するぞ!」などとまるで子供ながらに煽りたてることで、ついには興味を持たせることに成功した。
それからと言うもの朱莉は落ち込む出来事や悲しい気持ちになると、無意識の内に自分の気持ちを偽るため、アニメやゲームのキャラ達が口にするセリフを真似ながら、意図して“別の自分”を演じてしまうようになっていた。
それがやがては中二病になることへと繋がることになるのだが、当時の俺はそうなっても良いと考えていた。
何故なら孤独は辛いものであり、俺だって妹である朱莉が傍に居なければ両親をいきなり失ってしまい一人で気が狂い可笑しくなっていたに違いない。けれども俺が正気を保てられたのは、自分よりも両親の死について悲しみ泣いている妹の姿があってこそである。だから俺は朱莉に対して例え偽りでもいいから『生き甲斐となるもの』を与えたかったのかもしれない。
先程朱莉が部屋に入ってきた時のように中二病セリフを口にする時は寂しさ、もしくは自分の心の負担が限界まで達しているときだと俺は勝手に思っていた。それは兄妹だからとかそんな安っぽいセリフではなく、10年以上朱莉の傍に寄り添い支えてきた『信頼の証』だと俺自身は思っている。
そしていつしか俺は朱莉のことを『実の妹』から『一人の女性』として見るようになり、異性として好きであると自覚するようになっていった。
もちろん義理の兄妹なのだから戸籍上何の障害もなく、結婚もできるし恋人同士になることもできる。だがあまりにも兄妹だった期間が長かったせいか、俺は朱莉に自分の気持ちを打ち明けられずにいたのだ。
それは告白して断られる恐怖感と共に、これまでと同じ関係を維持できない恐れからなのかもしれない。
もし受け入れられれば何の問題もないだろうが、断られてしまえばもう家族として普通に朱莉と接することができなくなるはずだである。
だがいつまでもこの関係性を維持することは不可能だ。
何故なら昨日のよりも今日、今日よりも明日……と、俺の中に存在する朱莉に対する気持ちや存在が日増しに大きくなっていたからだ。一度それを意識してしまえば自分の気持ちを抑えられずに、つい弾みでこんな言葉を口に出してしまいたくなる。
「なぁ……朱莉……」
「うん? なぁにお兄ちゃん?」
「好きだ……」
「へっ?」
そうこんな風に、だ。………………うん? 待て待て、今俺は重大且つ大変なことを口走ったりしなかったかよ?
俺は事の重大さに遅まきながらに気がつくと、朱莉の顔を覗き込んでしまう。
「ぅぅっ……お兄ちゃん、それってさ……異性としてなの?」
朱莉は俺がつい口にしてしまった言葉を真に受けてしまったのか、丸めた右手で口元を隠すように当てながら少しだけ頬を赤らめ恥ずかしがるよう小刻みに体を左右に振っていた。
それは可愛らしくもどこか守ってあげたくなるか弱気女の子のように見え、衝動を抑えられない俺はつい思うがままの行動を取ってしまう。
「んっ」
「んっ……お兄ち……ゃん……っ」
俺は返事をする代わりに妹である朱莉に対して何の断りなしに唇を押し当ててしまっていた。
朱莉も始めこそその行動に驚いていたが、今は目を瞑りされるがままキスをしていた。
もしこのとき朱莉が俺のことを拒んでいてくれていたのなら、この後問題として起こる出来事は起きなかったのかもしれない。
それは朱莉の……首相としての立場を危うくする事態へと発展することになるのだが、今の俺達二人はそんなことを知る由もなくベッドの上でキスを続けるのだった。
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