第13話 重なる唇と気持ち

 夜が開け朝日が差し込む頃、窓から差し込む朝日のせいで朱莉が目を覚ました。


「お兄ちゃ……ん?」

「まだ5時になったばかりだぞ。もう少し寝ててもいいから……」

「うにゃ……うん……わかったよぉ~」


 慣れない公務と最近の激務のせいもあってか、未だ寝たりない様子の朱莉は寝惚けながらに俺の胸へと抱きつき、またそのまま寝てしまった。

 俺はそんな朱莉のことを抱き締めながら、そっと頭を撫でてやることにした。


「んっ……きもちぃ~♪」

「そうか」


 なんだかこうして朱莉の頭を撫でてやっていると子供の頃を思い出してしまう。

 朱莉はいつもこうして俺に頭を撫でられるのが好きだった。きっと手から伝わる俺の体温が彼女を安心させるのかもしれない。


「んっ……んんっ!? って、お兄ちゃん何やってるのさっ!?」

「いいから黙って寝てろ」

「わわっ……ぅぅっ。何この状況……なんでワタシ、お兄ちゃんに抱き締めながら頭なでなでしてもらってるの」


 頭を撫でられた衝動で目が覚めてしまったのか、朱莉はハッキリとした言葉で自分が何をされているのかと慌てふためいてしまう。

 俺はやや強引にも腕に力を込め抱き締め、頭を撫で続ける。


「んっ? ああ、なんかこうして一緒に寝ながら朱莉の寝顔を昨日の夜からずっと見ていたら昔のことを思い出しちまってな。ほら、昔はよく一人で寝るのが寂しくて俺のベッドに潜りこんできただろ?」

「い、いったいいつの話をしているのよぉ~。それにワタシの寝顔を昨日の夜からずっとって……っっ(照)」

「ま、いいだろ。何もこうするのが互いに初めてじゃないんだからさ」


 強引なこじ付けではあったが朱莉は俺のことを突き飛ばすわけでもなく、むしろ甘えるように胸に顔を埋めている。たぶん寝顔を見られた気恥ずかしさと俺に甘える自分の気持ちとの鬩ぎ合いの結果、後者の思いが勝ってしまったのかもしれない。


「ぅぅっ……うにゃっーっ!!」

「おわっ!? あ、朱莉?」


 朱莉は猫のような何とも言えない可愛らしい声を上げると無理矢理に抱きしめていた俺の腕を振り払い、そして上から覆い被さった。いわゆるマウントポジションというヤツだ。


「お兄ちゃんっ!」

「は、はいっ!」


 並々ならぬ朱莉の雰囲気と言葉に俺は素で反応してしまう。そして何を思ったのか、朱莉は俺の両頬を両手でふんわりと包み込むと唇を押し付けてきた。


「~~~~っ」

「ちゅっ……んちゅっ……ちゅーっ」

「んんっ!? ちょま……っ」

「ちゅちゅ……ちゅ~っ」


 ただ唇を重ねただけでは飽き足らなかったのか、朱莉は強引に舌をねじ込みながらサキュバスが精気を吸い付くせなんばかりの勢いで掃除機のように吸い上げていた。


 息がすることができずただ苦しいと感じるはずなのに、何故か朱莉のほうからキスをしてくれたことが嬉しく突き飛ばすことができるずに俺はそのまま朱莉の背中へと腕を回して抱きしめた。


「ちゅ……どうお? まいったか」

「はぁはぁ……いきなりすぎるだろ……」

「そ、それでどうなのお兄ちゃん? いきなり唇を奪われた感想は? 恥ずかしいでしょ? 恥ずかしいよね? 女の子が寝顔を見られるってことはそれと同じくらい恥ずかしいことなんだよっ!」


 どうやら熱烈なまでの朝のキスは寝顔を見られたことへの朱莉なりの腹いせのようだった。けれども朱莉自身もキスをするのが恥かしかったのであろう、その顔は夕日ではないのに赤色に染まっている。


「ああ……」

「でしょ? だから今後は一緒に寝てもワタシの寝顔は見ない……」

「――って、本来なら言いたいところなんだろうが、朱莉からキスをしてくれたから恥ずかしいよりも嬉しさのほうが上だったな」

「なっ!? っっ、それって……ぅぅっ(笑)」


 俺が頷き認めた瞬間、朱莉はまるで勝ち誇った顔をするのだが俺が続けざまにそんなことを口にすると驚き、そして声にならない声のまま更には顔を赤くして俺の胸へとポフッと顔を埋めてしまう。

 きっと恥ずかしさの許容量限界突破キャリーオーバーのため、パンクしてしまったのかもしれない。


 こうして俺達は昨夜のキスをしたことにより、ただの兄妹から更に進んだ関係へとなったのだが未だ互いの気持ちを通わせたわけではない。

 俺は何気なく、朱莉もまた寝言で伝え、その何とも言えない恋人とも大人の関係ともいえない兄妹以上恋人未満を誤魔化すためにキスをしたのだった。


 これが普通の兄妹ならば、キスなんて恋人同士がするものをしないはず……。朱莉もまたそれを拒むことはなく、むしろそれどころか積極的に俺のことを求めてくれたので互いに両想いだとは思ってはいる。

 けれども気恥ずかしさも手伝い、互いに面と向かって自分達が恋人同士であるかの確認や好きなどとの意思表示をすることができずにいた。


 そうして何とももどかしくも嬉恥ずかしさを抱えたまま一緒に手を繋いで部屋を出て、朝食を食べてからその日の公務をすることにした。

 しっかりと握られた俺の左手は互いの指と指との間に入れて相手との関係性を表すもの……つまり恋人繋ぎである。


 たとえ言葉で言い表さずともキスをしたり、恋人繋ぎをすることで行動で互いの想いを共通する。

 それが奇しくも他の誰にも言い出せない秘密を共有するかのようで、俺も朱莉もまた互いを『好きだ』という気持ちを加速させていた。

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