〝いと〟を断ち切り、未来を切り拓く。心優しい少年の成長譚。

女王が「精霊の声」を聴き、そのお告げに従って動くことで、平和を保とうとしてきた国。個々が自らの意思決定に責任を持たずに生活し、決められた出来事をなぞっていく日々に、多くの国民が疑問を抱かない世界。

しかし、「精霊のお告げ」に頼りきった先細りの世界の暗がりでは、この国の在り方に警鐘を鳴らすかのように、不穏な因子が密かに芽生えていて……。時は流れ、騎士団の新入り・カートが、魔導士であり人形遣いの青年・ピアと出会うことで、人々の運命や生き方が大きく変化していきます。

マリオネットとは、何なのか。ある者は、負傷した肉体を補佐する器。ある者は、本当の気持ちを見つける途中の女王。登場人物の数だけ「マリオネット」と表現される生き方が丹念に描かれていて、彼等ひとりひとりがカートを始めとした他者との関わりを持つ中で、やがて凛と前を向き、瞳に尊厳の輝きが灯っていく過程が素晴らしかったです。

主人公・カートの成長も、本作の大きな見どころの一つです。彼の先輩に当たる騎士であり貴族の少年・アーノルドとの関係性の変化は必見です。
恋も、友情も、戦いも。ぎゅっと贅沢に詰まった王道ファンタジー。登場人物みんなのことが好きになる、幸せな読後感でした。

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