もつれた運命の糸に絡めとられる人々と、抗う少年とそれを見守る魔術師と

 水晶木という精霊の宿る木が選ぶ女王が統べる国ラザフォード。
 その国で、三人の幼馴染の少年少女がとある秘密の場所で小さな黒いかけらを見つけるところから物語が始まります。

 女王に一目惚れし、彼女に近づきたい一心で宰相にまで上り詰めた男。
 次代の女王選定の儀式で、思わぬ運命に巻き込まれるかつての幼馴染の三人の男女。
 父を知らず、母をも亡くした上に、突然精霊の導きによって騎士に任命された少年。

 それぞれが見えない糸に操られるように、思わぬ運命に巻き込まれていきます。

 精霊の言葉によって安寧を得てきた国で、人々はどのように生きていくべきなのか。国を治めるということは、あるいは、人を愛するということとは。
登場人物たちが投げかけるさまざまな問いは、読んでいるこちらにも深く突き刺さります。

 個人的には、ひどく身勝手に見えたヴィットリオもまた、そもそもの初めから運命の糸に絡め取られ、けれど抗い続けてきたにもかかわらず、彼が選び取った運命を思うと、何ともやりきれない気がしてしまいました。
 少しずつみんながすれ違ってしまっていったそれぞれの想いが、「あれ」の意思によるものなのか、あるいはいずれにしても避け得ない運命だったのか……。

 とはいえ、自身もまた運命に翻弄されながらもまっすぐに立ち向かっていくカートと、彼を見守り、時には共に戦うピア、そして、何とも鼻持ちならない意地悪な少年だったアーノルドがふとしたきっかけで変わり、成長していったことで、たとえ困難が降りかかるとしても、自ら考え、行動を起こせば未来を切り開くことができる——そんな風に希望を感じることができた気がします。

 丁寧に織り上げられた世界観と、複雑に絡み合った人の想いと、少年たちのまっすぐな意志と強さ。じっくりと読んで、ぜひ、この世界に浸って欲しい一作です。

 おすすめです!

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