今だけの音を集めて、みんなで最高の青春を奏でていく
- ★★★ Excellent!!!
本作は、少しドライなところがある高校一年生・薫が、同じ中学校出身の少年・悠と共に、吹奏楽部に入部してからの三年間を描いた青春小説です。
中学校でも吹奏楽部に入っていた薫は、コンクールで賞を獲れなくても「悔しい」という感情を持てなかった経験から、これからも音楽を続けるかどうか、入学当初は悩んでいました。しかし、そんな足踏みを経て飛び込んだ世界には、たくさんの新しい仲間たちがいて、待ち受けていた未知の音色が、あっという間に読者を夢中にさせました。
もっと上手くなろう、賞を獲りにいこう、と目標を掲げる部員たちと、担当するパートを巡って競い合い、コンクールに向けて切磋琢磨するうちに、薫は少しずつ変わっていきます。
そして、薫が変われば変わるほどに、吹奏楽は「一人ではなくみんなで」奏でるものなのだと、読み進めながら何度も実感しました。理想の音を求める中で、みんなの絆が強固になることもあれば、音を巡って部員同士が衝突するようなドラマもあります。
全員が、同じ方向を向いているわけではない――そんなメンバーで、調和の取れたメロディを生み出すことの難しさが、とてもリアルに描かれています。それでも、全員で壁を乗り越えようとする気概と、目標を達成できたときの喜びも。
楽曲に込められた思いをも掬い上げるような演奏シーンは、耳にする者の瞼の裏に、あるときは勇壮に、あるときは繊細に、物語と感情を想像させるリアリティに満ちていて、圧巻の迫力がありました。文章から聞こえてくるメロディに、読み手の心が揺さぶられたのは、音楽にかける薫たちの情熱と、作者さまの愛情のなせる業だと感じます。
そんな青春の日々を駆け抜ける中で、悠との関係が徐々に変わっていくところや、進級に伴って部の幹部を新たに決めようとする流れも、必見です。個性豊かで眩しいキャラクターたちのことが、どんどん大好きになっていきました。
彼らが奏でた青春を、最終話まで聴き終えたとき、爽やかで晴れ晴れとした気分になりました。熱くて、キラキラしていて、時々ほろ苦くて、愛おしい。そんな青春を、薫たちと一緒に駆け抜けてみてはいかがでしょうか。おすすめです!