子どもの頃に出会った物語を、大人の目線で読み解いていく

本作は、小学校の教科書に掲載されている物語を、大人の目線で改めて読み解いていくエッセイです。
取り上げられている物語は、『スイミー』『モチモチの木』『ごんぎつね』など……タイトルを見るだけで、記憶の引き出しから内容が蘇ってくる名作たちが揃っています。各エピソードの冒頭に綴られた要約文と、隙のない筆致でまとめられた感想文が、読み手の心を一息に「その物語と出会った小学生の頃」まで連れていってくれます。

あの頃、私はそれらの物語をきちんと理解できてただろうかと自問したとき、おそらくできていなかったのだろうな、と思いました。それぞれのストーリーラインは記憶に残っていても、柔らかでありながら研ぎ澄まされている文章や、登場人物たちの何気ない台詞や動作の中から、幼い目線では汲み取れずに取り零した情緒の数々が、たくさんあったことに気づきました。あるいは、それらを感覚的に汲み取っていたとしても、幼さゆえに感じ取ったものを言葉にするすべを持たなかったのかもしれないな、とも思います。
そして、そういった「汲み取れたこと」「汲み取れなかったこと」の両方が、現在の私を始めとした、多くの人たちの心を育んできたのだろうなという点も、本作を通して得られた大切な気づきの一つです。子どもの頃には「汲み取れなかった」部分に対する考察も、作者さまの眼差しに温もりが感じられて、今回のエッセイ執筆にあたって、物語それぞれと真摯にじっくりと対峙されていたのだろうなと想像しました。

再び出会い直した物語たちは、大人になっても心を揺さぶるものばかりでした。ぜひ、本作を通して、名作に続く扉をもう一度開いてみてはいかがでしょうか。今も昔と変わらず子どもたちの心を豊かにし続けてきた物語たちが、大人の心も温かく包んでくれること間違いなしです。

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