ロッテ・ヴァーグナー男爵令嬢は、平民である祖母の血を引き継いで赤毛を蔑まれてきた。さらには世界で唯一、他者を運ぶ転移魔法を使うために対象者と離れることができない――故に抱擁が必須。『抱きつき魔』と揶揄され、悪意にさらされていた。
その困難にも負けず、任務をこなす日々。平穏ではないが平和な日常を脅かす事件が次々と起きて―――
何においても、読了後、世界観の緻密さに圧倒されました。
異界の【鍵】を開くことで魔法を行使する貴族達は【鍵持ち】と呼ばれています。世界の定めか思し召しか、鍵を引き継ぐのは第二子まで。
貴族達は魔法を繋ぐために血に固執しがちです。確執を生む考えや実態が話に絡み合い、繋がって形となっていく佳境はページをめくるのが楽しくてたまりませんでした。
全てを読み終えた時、この世界をもっと知りたい、そう思える物語です。
全てのキャラクターの心情も垣間見えるのも魅力のひとつ。このキャラクター好き~と楽しむのもおすすめです。
主人公・ロッテと世界の命運を切り開いてみませんか。
異世界が舞台の物語が数多く生まれている現代において、タイトルに「令嬢」というワードが入っている作品を目にする機会も、かなり多いのではないかと思います。そんな中で、こちらの『抱きつき魔令嬢の革命譚』は、異彩を放っているように感じました。
抱きつき魔令嬢――奇抜で衝撃的な二つ名を与えられた人物は、主人公の少女であるロッテ・ヴァーグナー。親から子へと受け継がれる魔法のことを【鍵】と呼ぶ世界では、多くの貴族たちが【鍵】持ちであり、それぞれが魔法を使えます。
例えば、傷口を塞ぐ治癒魔法。光属性の攻撃魔法。人の心を惑わせる闇魔法。そして……男爵家の長女であるロッテの【鍵】は、居場所をたちどころに変える転移魔法です。遠く離れた場所まで一瞬にして移動できる上に、彼女の場合は「他人も一緒に転移」できるという、稀有な特性を備えています。
ただし、転移では異空間を経由するため――道中で相手とはぐれないように「強く抱き合う」必要があるのです。
魔法師団長のギュンターと、彼の副官を務めるフーベルトと出会ったロッテは、やがて魔法師団の新入りとして働き始めます。祖母が平民出身の彼女は、両親からひどく疎まれ、ギュンターとフーベルトを慕う令嬢たちからの顰蹙も買い、行く手にはさまざまな壁が立ちはだかります。けれど、どんな困難に見舞われても、ひたむきに前を見据える勇気と、他者に対する分け隔てのない優しさが、読者の心に温かい光を灯すのです。心に深い傷を負っていながら、与えられた場所で知識を吸収して、自らを輝かせる生き方に、私自身もたびたび勇気づけられました。
【鍵】という魔法が存在するということは、【鍵】の有無や能力の優劣が、自分自身の存在意義に、否が応でも介在してくるということに他なりません。持って生まれた、あるいは持たざる者として生まれたことで、懊悩したり、立ち止まったり、それでも立ち向かったりする彼女たちの姿に、幾度となく心を揺さぶられました。
移動の手段に過ぎなかったはずの「抱きつく」行為に、新たな感情の色彩が足されていく過程も、すごくドラマチックで惹きつけられました。人は、大切な誰かのことを思うとき、綺麗な感情も、薄暗い感情も、どちらも己の中で育つのだと思います。されど、どちらの感情を抱えて前に進むのかは、自分自身で選び取れる……そんな強さとしなやかさも、この物語が教えてくれたように感じました。
その場所に根付いた価値観を変えることは、茨の道かもしれません。それでも、ロッテたちなら、いつか変えられるのではないか……そんな希望を感じたとき、ロッテが他者に与える影響の大きさを知ると同時に、彼女に惹かれていくギュンターとフーベルトの想いにも、深い納得感を覚えました。コミカルで穏やかな三角関係も必見です。
不遇の令嬢が、緑の瞳にどんな輝きを携えて、どんな場所まで跳んで見せるのか。皆さんも、ぜひ陸路という物語で、追いかけてみてはいかがでしょうか。きっと、無我夢中で先を読ませる物語が、あっという間に彼女の着地点まで皆さんを運んでくれることでしょう。そして、彼女たちがどんなふうに世界の在り方を変えたのか、彼女の居場所から確かめてみてくださいね。
作り込まれた精緻な世界観、精巧に組み上げられた物語、その中を力強い輝きを放ち生きる主人公ロッテと彼女を取り巻く人々。
読み始めるなり惹き込まれ、うっかり時間を忘れてしまうことが幾度もありました。
淡々と、親しみやすい筆致で語られる冒頭は、それでありながらロッテの強い意志をひしひしと伝える静かな熱量を感じます。
不遇、という一言では到底片付けられない苛烈な状況下にあった彼女は、文字通り陽の当たる場所に掬い上げられたばかり。
自身に手を差し伸べ、魔法師団という居場所を与えてくれた人々に報いるために、懸命に前を向いて歩いていきます。
国で唯一無二の能力を持つロッテを気にかけるのは、魔法師団長のギュンターとその副官のフーベルト。
令嬢たちの憧れの的である彼らに目を掛けられていることで、ロッテは悪意に満ちた中傷を向けられますが、賢く素直な彼女は自らの力で人々に植え付けられた印象を覆していきます。
そしてそんな魅力たっぷりのロッテを周囲も放っておくわけがないのでした。
本作は恋愛小説としての本領を発揮しつつ、散りばめられた伏線がパズルのようにピタリと嵌っていくストーリーが心地良い物語です。
加えて個性際立つ男性陣の軽妙なやり取りに思わず吹き出してしまうこともしばしば。
世界の背景、登場人物の過去や個性とそこに依拠する信条、それらが見事に絡まり織りなす珠玉の物語は、どのような年代の読者にも読み応えと楽しさを与えてくれることと思います。
読了直後の興奮状態で書いています。
まず第一に、このお話は、本当に本当にどこもかしこも愛おしいです。
主人公のロッテは、家族の中で非遇に合いながらも心根がまっすぐで、自らに何ができるのか一生懸命に考えて行動する。知恵もあり、気遣いもあり、決して人を欺いたりしないと思わせるとても素敵な女の子です。
どんな人でも彼女には本心を吐露してしまいそう。そして実際、他の登場人物たちも彼女に惹かれていくのはもっともだと思います。
そして他の登場人物たちがどなたも素敵であられて!
殿方がたは個性的であり、こんなにもさまざまに性格や特徴、背景も異なる登場人物たちを一人一人魅力的に描かれる筆者様に敬服します。
女性たちの中には、時には顔を顰めたくなったはずなのに、物語が進んでいくと好きになってしまう令嬢が出てきます。
お互いがお互いを思いやる優しい関係性が愛しくて、ああ、いいなぁ、と感慨深く見守ってしまう。
物語のスケールは壮大で、緻密に設定された過去の出来事がしっかりと基盤を成し、物語内の現在における事件が展開していくため、とてもリアリティがあります。さらに中盤で明かされる事実には驚愕と戦慄を誘われます。ファンタジーに深みを与える「鍵持ち」という独特の設定が物語世界を唯一無二のものにしていて、「やっぱりファンタジーはこうでないと!」と心躍ってしまうこと請け合いです。
個人的に一番の魅力は、登場人物たち同士が信頼と愛情を持っていること。本当に愛しい。皆が幸せになってほしい。誰も傷ついて欲しくない……! と切に願いながら読み進め……
そしてそして、きっとこの登場人物たちなら、ロッテさんなら、それが実現できるはずだから! と希望を持たせてくれる。
実際に、彼女の心が周りの人々を行動させる。彼女自身も周りの人々の気持ちに力を得ながら進んでいく。心の機微が如実に伝わり、「あああもう!」と愛しさいっぱいで見守ってしまいます。
読書中も、読後も、温かな気持ちで胸がいっぱいになります。
これを読まないのは損です!
もっとたくさんの方に読んでいただきたい、すごくすごく素敵な物語です!!
(好きすぎる登場人物が数人できました。彼らのこの後も見たい……!! 見たいです!)
男爵令嬢のロッテ。祖母譲りの赤毛を理由に両親から疎まれていた彼女ですが、横領の疑いで両親に捜査の手が入った事で解放されました。
そうして判明したロッテの特異性が、他人をつれて使える転移魔法。その力を使い魔法師団で働く事になりました。
恋愛作品なので魅力的な男性キャラが登場します。
少し抜けたところもありつつ善性の塊な魔法士団長のギュンター、真面目で優秀ながら黒い一面がある副官のフーベルト。快活さの裏に策士の顔がある隣国の王子イエンス。
もちろんロッテも健気で可愛く聡明で、皆に愛されるのが納得できます。
漫才めいた楽しいかけ合いはいつまでも見守りたくなりましたし、ドキドキする台詞やシチュエーションもバッチリです。
ただ、強い力は不幸を呼び込みます。魔法を使える貴族の責務、縛られた婚姻、子への重圧、見苦しい嫉妬。皆が抱える重い過去からは世界の厳しさを痛感されられました。
それでもロッテをはじめ主要キャラは苦難に負けず優しさを失わずに行動し続けます。そして思いが周りに伝播し環境が変化していく。王道の展開がやはり気持ち良いです。
ラストは仕込まれた伏線を綺麗に回収してのハッピーエンド。
とても素敵な物語です。
この世界には、【鍵】というものがある。これは様々な制約がありながら、権力に紐付いてるものである。そしてこの【鍵】は継承される――されるからこそ、主人公のロッテは幽閉されていた。
そんな彼女が助け出されて、そこで二度目の産声を上げて歩き始める、そんな物語であると思った。
ロッテの能力は他人と共に転移ができるというものだが、そのためには相手にぎゅっと抱きつく必要がある。何せ、そうしないと異空間で大変なことになってしまう。
さてこれがまた大問題と言うべきか、ご令嬢たちには『抱きつき魔』などと言われてしまうのだ。大いに嫉妬の入った話ではあるが……。
恋愛は主軸にありますが、決してそれだけではない物語です。【鍵】のこと、誰もが背負った過去のこと。そういうものが丁寧に積み上げられ、物語を作っていました。
ヒロインのロッテとヒーローのギュンターのみならず、他のキャラクターも魅力的。誰もから目を離せなくなること請け合いです。
ぜひご一読ください。
面白かったです!!
これをただのドアマットヒロイン逆ハー恋愛ものとして銘打ってはいけません。
誰より優しく、大切なものを守る勇気と力を持ち、どんな逆境にも決して折れなかった、芯の強い女性が主人公の物語です。
地位の低い男爵令嬢のロッテは、家族から監禁ネグレクトされて育ち、娑婆に出てからも他の令嬢たちから蔑まれるという、絵に描いたようなドアマットヒロイン。
ですが決して卑屈になりすぎることなく、与えられた職務をひたむきに全うしようとする姿に、好感を抱きました。
【鍵】と呼ばれる能力の中でも、人を運搬できる転移魔法の使えるロッテは貴重な人材。
彼女自身、己の能力に自覚と自負があり、運ぶ対象に危険のないよう最善を尽くそうとします。ゆえに「抱きつき魔令嬢」などと不名誉な二つ名を付けられてしまうわけですが……その誠実な姿勢は、自然と応援したくなります。
ロッテを取り巻く男性陣にもそれぞれバックグラウンドがあり、物語に奥行きを感じます。
どっぷり恋愛というわけではなく、さまざまな思惑と策略が行き交う中で人間同士の絆が育まれていくため、甘すぎる恋愛ものが苦手な人もしっかり楽しめるでしょう。
メインヒーローのギュンターとその副官フーベルトの、ちょっとトボけたやりとりが絶妙。ロッテを巡って三角関係のはずなのに、フェアで和やかで、実家のような安心感すらあります。ずっと三角関係であれよ。
文字通り物語のキーとなる【鍵】という資質の設定が、よく練られていて大変面白いです。
能力の出方、遺伝の仕組み、それがダイレクトに地位に関わってくること。
それら全てが、綿密に張り巡らされた伏線と絡んできます。
ストーリーの骨組みがしっかりしているため展開に安定感があり、一つの謎が明かされると共に次の秘密が現れて、特に後半以降は加速度的に面白さを増していきました。
全ての謎が解き明かされ、登場人物全員が自分のできる最大限の力を尽くし、大いなる脅威へと立ち向かうクライマックスは圧巻。
社会のより良い変革を予感させる、明るいラストシーンも素晴らしかったです。
全文で10万字と決して長くはない作品ですが、文字数以上の読み応えがありました。
一気読みできるお話だと思います。おすすめです!
抱きつき魔。
この言葉でいやらしいこと考えたガキンチョは回れ右だ。大人の世界を知るにはまだ早いぜ。
さておき、この作品の主人公、ロッテが抱きつかないといけないのには理由があります。
それは「自分が唯一使える転移魔法を行使する際、自分の体にくっついていないものは運べない」という制約があるからです。
え? じゃあ手でも繋げばいいじゃないかって? いえいえ。
転移魔法を使う際は、異空間の中に飛び込む必要があります。これがすごいところで、もうがんがんにシェイクされるみたいなんですね。お手々繋いだ程度じゃ吹き飛ばされてしまいます。
なので抱きつき、抱きつかれる。
そう、自分の能力を使うには対象と抱き合う必要があるのです。
故にぎゅっと抱きつく。誰にでも抱きつく。だって抱きつかないと仕事できないから。
このことがとにかくロッテの品位を貶めます。娼婦とかなんとか言われることも。おいコラそこのボウズ。娼婦って言葉に反応するなよ?
ロッテはこの能力を使って人の運搬をします。遠方の戦地へ人を運んだり、あるいは隣国の王子を王の臨終に間に合わせるために長距離をすっとばしたり。
一見すると便利そうでしょ? でもこの能力には暗い過去があって。
ロッテは虐待サバイバーです。なにせ自身の出生上の特徴を理由に(貴族の生まれなのに髪の色が平民の色だったということ)、年頃までずっと監禁されていたのですから。実の親からひどい扱いを受け、人以下、動物以下の扱いの中、懸命に今まで命を繋いできて。
そういう意味ではかつて日本であった障害者が生まれた時の対応や、あるいは他国の人種文化のような差別感がある。そんな中でロッテは懸命に生きていく。
ロッテは色々なものを背負っています。
この作品の世界では魔法の資質を【鍵】と呼ぶのですが、そんな【鍵】を持った人間として、【鍵】がない自分には価値がないのかと思い悩んだり、毒親のせいで自分の生まれ、自分の存在、そういうものを疑ってしまって動けなくなってしまったり、ようやく長きにわたる監禁から解かれたというのに、仕事のせいであらぬ疑いを持たれて、よくない噂をばら撒かれたり。とにかくこれでもかと不幸を背負い込んでいる。
ただまぁ、これだけならヒロインが苦労する話ということでどこにでもあるような物語になってしまうのですが。
本作、逆ハーなのですが、ヒロインロッテの周りを囲む男子たちにも暗い過去がありまして、それが結構重たいです。どの主要キャラクターにも背負うものがある。つらい過去、暗い過去、思い出したくない過去、封じ込めたい過去。
僕は男ですので、このメンズたちに肩入れしてしまうんですね。
こんな過去を持ったまま人を愛せるかと自分に問うと思わず「NO」と言いたくなるでしょう。普通の男なら挫けていると思います。
でも、この周りのメンズたちも強いんですね。自分の運命を受け入れて前に進もうとしている。
特にギュンターってヒーローなんかすごいですよ。自分の不幸を受けて「こんなことが起こらないようにしよう」と懸命に動いている。立派なものです。こりゃ女にモテる。
そういう意味で、「精神的に強い男が見たい」という男子の想いも叶えてくれるのが本作。ただの逆ハーじゃありません。
この物語は吹っ飛ばす話です。長距離も、国境も。
でも吹っ飛ばせる話じゃありません。それぞれに背負うものがある。
そういう意味では、主人公ロッテだけがこの苦難を吹き飛ばせるのかも。
そんな彼女に救われたから、この物語のメンズは彼女を愛するのかもしれませんね。
さて、そんな「吹っ飛ばすけど吹っ飛ばせない」物語。
ぜひご堪能あれ。
ロッテ・ヴァーグナーは男爵家の長女。だけど、平民だった祖母譲りの赤毛持ちだったが故に冷遇され、不遇な人生を送っていた。
そんな彼女を闇の淵から救い出したのは、魔法師団長のギュンター・シン・ゴレッカと副官のフーベルト・ヴァイセンベルクだった。彼らは彼女を救う為に調査を開始する。
彼女の持つ魔法は転移魔法。しかも他人も一緒に転移することができるという特殊なものだ。しかし、そこには一つ大きな問題点があった。何と彼女が人を運ぶ時は「異空間ではぐれないよう抱き合う」ことが必要不可欠条件だったのだ!
ロッテを気にかけつつ、普段の任務に勤しむ二人だが、他人には言えない〝秘密〟があって……?
魔法士団員に入団したロッテに次々と襲いかかる事件。
選ばれし者だけに存在する【鍵】の謎。
途中から唐突に訪れるロッテのモテ期。
ギスギスではないけど漂ってくる三角関係。
中々スムーズにいかないロッテとギュンターの淡い恋の行く末。
そんな中で勃発した国を揺るがす大事件。
果たして彼らは国を守ることが出来るのか!?
恋愛だけじゃない、美味しい展開が目白押し!
続きが読みたくなること間違いなしな、異世界恋愛ファンタジー作品です。
選ばれた者だけが生まれながらに持つ【鍵】。
様々な条件や制約がありながらも、【鍵】を持つ者には異界の力を発現する力が与えられる世界。
その鍵持ちである主人公ロッテは、両親の望まぬ容姿である赤毛で生まれてきたことから、その存在を隠され幽閉されることに。
両親の横領事件を機に助け出された彼女が持っていた力は、「他人と共に転移が出来る」という国で唯一と呼べるもの。
しかしながら、その発現の条件がその相手と抱き合うという特殊なものであったこと。
さらには彼女の理解者である魔法師団長のギュンターと副官のフーベルトへ恋心を抱く令嬢たちによる心無い噂により、「抱きつき魔」という不名誉な悪名をつけられることに。
それでも彼女は暗く閉じ込められた場所から、自分を光ある世界へと引き上げてくれた人たちに報いて生きていこうと決意するのです。
彼女の健気さに触れ次第に理解者が増える一方で、良からぬ企みや試練がロッテを次々と襲います。
どれだけ辛いことがあろうとひたむきに前を向き、自分を助け守ろうとする人達へ、彼女はその腕を伸ばし自身の力を精一杯の思いと共に抱きしめながら進んでいきます。
その姿に皆さまもきっと、読み進める手が止まらなくはずです。
抱きつくにはまず、手を伸ばすことから始まりますよね。
さぁ、皆さま。
一人の優しい少女のその手をそっと握りしめ、彼女の物語の世界へと抱かれてみませんか。
とても面白かったです!ラストが気になって一気読みしてしまいました!
この物語のかなめとなるのが【鍵】の存在。
これは魔法と言い換えてもいい特殊な能力で、貴族にしか使えません。ですが、【鍵】は第二子までしか継承されない、収納魔法と転移魔法はどちらかしか使えない、などの制約があります。この【鍵】が文字通り物語のキーとなってきます。
ヒロインのロッテはなんと幽閉されたシーンから始まるというなかなかの不遇ぶり。
両親が横領の罪で逮捕され、家宅捜索の際に見つけられたロッテはボロボロの状態でした。
運よく魔法師団長のギュンターと副官のフーベルトに救われたロッテ。そして彼らは彼女の特異な能力を知ることになります。
それは「他人を転移させられること」。転移魔法は通常自分自身だけしか転移させることができず、これまでにも他者を転移させることがきたという話は聞いたことがありません。この能力を買われ、ロッテは魔法師団に入団することになります。
ですが、人を転移させるためには相手に抱きつかなければなりません。
そんな彼女についた悪名は「抱きつき魔令嬢」。誰それ構わず抱きつくことで、ロッテはあらぬ噂を立てられます。それだけではなく、彼女を幽閉に追いやった両親や、ギュンターの婚約者候補である令嬢の嫉妬による企みに巻き込まれ、これでもかというほどつらい試練が次々にロッテを襲います。
ですが、そんなロッテを支えてくれるのが魔法師団長のギュンター。恋愛に関してはやや疎い一面もありますが、有能で【鍵】を持つがゆえに不遇な道をたどらざるを得ない者たちを救おうと考えている優しい男です。
そんな彼の優しさに触れながらロッテは少しずつ強くなっていきます。ギュンターの副官であるフーベルトもロッテに想いを寄せながらも彼女の大きな力になってくれます。
読み進めるに連れて序盤に出てくるさまざまな伏線を綺麗に回収し、パズルのピースがピタピタとはまっていく読み心地は爽快。重厚なストーリーの中で魅力的なキャラクターがストーリーを彩ります。
登場するキャラクターもそれぞれ個性的で、特にギュンターとフーベルトのやり取りは大事な場面にも関わらず時には笑ってしまうほどの心地よさでした。二人とも同じくロッテを愛する男たちですが、お互いに信頼し合っている仲なのでむしろ三人でいるのもいいなと思ってしまうほどです(笑)
隣国のイエンス王子も、隙あらばロッテを狙おうとしてくる素振りを見せつつも有事の際は活躍してくれるカッコよさ。彼も交えた恋模様をまだまだ見たいなんて思ってしまいました。
とても10万字未満でつづられたとは思えないほどに濃密で読み応えのある本作。まだまだ物語の余韻を感じさせつつ迎えた大団円は胸が温かくなりました。
不遇な運命から幸せを掴んだ一人の少女の物語を、どうぞ最後まで見届けてください。
土の世界に現れた使徒が手にした鍵で7つの属性の扉を開き、異界から流れ込んだ力は世界を豊かにしていった。使徒は人間に「鍵」を配り、やがてその「鍵」を持った人々は貴族となり、この国を率いていく。(本作より一部抜粋)
本作はそんな「鍵」の存在が特徴的な異世界ファンタジーです。
主人公の少女ロッテも「鍵持ち」ですが、この世界では貴族しか持ち得ないその能力を有しているはずの彼女は、なぜか屋敷の地下に幽閉されていて……。
魔法師団の団長ギュンターや副官のフーベルトたちによって無事に救出されたロッテは、自身の持つ「鍵」の能力ゆえに「抱きつき魔令嬢」と揶揄されてしまうことに。それでも自分に居場所をくれたギュンターたちの優しさに触れ、ロッテは少しずつ自分の生きる道を見つけていく。
魅力的なのはその「鍵」の設定に加えて、多彩なキャラクターたちです!
主人公のロッテ、ヒーローのギュンターは言わずもがな。副官フーベルトも加えた三角関係も見所のひとつ。三角関係といってもドロドロしたり相手を貶めるような内容にはならないので、そういうのが苦手な方もご安心を。この三角関係では主にフーベルトの不憫可愛い姿を堪能して下さい。かわいそ可愛い。
好きな女性と尊敬する上官の間で揺れ動く副官の立場…せつないのに読み手としてはとてもおいしい箇所だったりします。ラスト付近ではギュンターとフーベルトの、皆まで語らない意思の疎通が何とも言えずグッときました。
女性陣もライバル的存在の令嬢もいれば、ロッテと違って溺愛されていた妹も登場し、流行をしっかり取り入れて練られた物語。なのでざまぁ展開がお好きな方にはおすすめの一作です。
イケメン好きの私としては、能力ゆえに仕方ないとはいえ、イケメンと合法的に抱き合えるのはうらやまし……ゲフンゲフン……とてもおもしろい作品でした!