2回目の四月一日(既読267話)

 去年、エイプリールフールを知らないソードにかわいらしい嘘をついてしばかれた私。

 今年は、私が何を言ってももう信じてもらえないだろう。


 ――というわけで。

け! リョーク!」

「「あいさー!」」

 私はリョークを向かわせたのだった。


 そして迎えた当日。

 テーブルに紙が置いてあった。

 ソードが紙を見ながら背を向けて立ち尽くしているので、ソードの後ろからその紙をヒョイと覗いてみてみると……。

『度重なる浮気に愛想が尽きました。家出します。 リョーク』


 私はサーッと血の気を引かせた。

 ――――リョーク!!

 これはナシでしょヤバいでしょ! さすがにソードが激怒するよ!


「リョ━━━━クぅううう!!!!」

 ソードが叫ぶ。

「ソード、ちょっ……待っ……」

 私がソードを止める前に、ソードは風のように出て行ってしまった。


 リョーク、ちょっとやりすぎだって! ソードにしばかれるぞ!

 ……あとコレ、どこまで嘘なの? わりとガチじゃないの?


 私はソードを追いかけ探したが、リョークどころかソードも見つからない。

 本当にちょっと待って……本気モードのソードは私でも敵わないし、そして本気モードのソードが怒ったらマジで怖い。

 私だけならまだしも、リョークも怒られるんじゃないか?

 私は必死でソードを探し続けた。


 夕方、ようやくリョークを見つけたソードを見つけた。

「ソード! リョーク!」

 ……ソードがリョークを破壊することはないだろうが、それでも破壊してしまうくらいリョークを愛しているのはわかっているので、リョークが無事でいる姿に心の底からホッとして声をかけた。

「良かった! 見つかったか!」

「……おかげさまでな」

 ……ソードの声音がめっちゃ低い。うぅ、リョークから聞いたのか……。

「…………その、今日は、四の月の一日目だから…………」

 もじもじしながらソードを上目づかいで見た。

「…………」

 ソードが黙って背を向けている。

 うぅ、心が痛い……! ごめんなさい……!

「――――そうだな。今日は、嘘をついても許される日、だったな」

 ソードが振り返る。

 私は思わず目を閉じて首を竦めてしまった。

 ……………………。

 恐る恐る目を開けると、笑顔のソードがいた。


 え? …………怒りのあまりの笑顔?


 そう思ったとき。

「ブハッ!」

 ソードが思い切りふきだした!


 え?


「いぇーい! 大成功!」

「お母さん、今日は嘘をついてもいい日ですよ~!」


 ………………は?


 はしゃぐリョークに目が点になった。

 笑いを収めたソードが、腰に手を当てながらニッコリして言った。

「去年の仕返しだ。……というか、俺は忘れてたんだけどリョークが『俺に嘘をつくようお前に言われた』っつったんで、俺がそれに乗った」

「リョ━━━━ク!!」

 お前らはぁぁああぁぁあ!!!


「ひどいー! 私の命令よりソードの命令を聞くなんてぇ~!」

 私はリョークをなじったが、ソードは腕を組んでニヤニヤ笑った。

「いや? リョークはお前の命令ちゃんと守っただろ。リョークはキチンと俺に嘘をついたよ。ただ前もって『四の月の一日目に嘘をつく』って知らせてくれただけだ。でもって俺も、『じゃあ、俺も騙されてやるからインドラも騙してやれ』って命令した。……ま、俺もあの置き手紙にはビビったけどな」

 ソードが遠い目をする。そりゃあね。いろいろ自覚があるもんね、ソードは。


 うぅう……。確かに、確かにさぁ! 私の言いつけは守ってるけどさぁ!

「うぅ~……」

 私が涙目でうなると、ソードがワシワシと頭を撫でた。

「嫌ならそういうことをするなって。その『四の月の一日目に嘘をつく』ってのは、知ってるからこそ成り立つんだろ? 知らないやつにやるもんじゃねーんだぞ? お前だって、嘘をつくなんて思っても見なかったリョークと俺から嘘をつかれて腹が立っただろ。わかったか?」

「うん」

 ……確かにそうでした。ごめんなさい。


 くしゅん、としおれるとソードがほっぺを引っぱる。

「ホラ元気出せ。今日は嘘をつかれても笑って許す日なんだろ? ま、俺もかなりビビった嘘だったから、お前もそうとう驚い……」

「ソードさーん。僕たち、そこまで嘘をついてないよー」

 リョークがソードの言葉をぶった切って言い放った。

「嘘の部分はちょっとだけだよー」

 私のほっぺを引っぱるソードの顔が、固まって引きつった。

「…………ちなみに、どこら辺が嘘なのかな?」

 恐る恐る尋ねるソード。

「「家出」」

 リョークが声をそろえた。


 ワーヲ!

『愛想が尽きました』じゃないんだね!

 ――この後、ソードがずーっとリョークに弁解という名の謝罪を繰り返していたのでした。

(終わり)

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