2巻発売記念SS~ネタバレNGな方は2巻を読んだ後に読んでね!~

〈変身ヒーローごっこをしよう〉



 ソードは、仮面幼女ーがお気に召さなかったらしい。次の町に行くまでに別の変身ヒーローを考えておかねば!

 ……そう思って考えているんだけどね。変身ヒーローの真似っこって難しいのよ。全体像の知識はぼんやりとあるのだけれど、細部を思い出せなくてさー。

 仮面幼女ーみたいに、何かをモチーフにしていて、自分でデザインを考えられるのならいいんだけどさー。うーん、何かあったかなぁ。


 知識を掘り起こし、簡単そうなヒーローを作ってみた。

 まずは、金ピカの髑髏のかぶり物に金ピカの全身タイツの怪人!

 登場時はリョークにライトを当ててもらってピカーッと光らせます。

 折よく(?)ソードが魔物ごはんを狩りにお出かけ中なのだ。

 そーっと追いかけて、

「フハハハハハ!」

 リョークにライトを当ててもらいつつ登場したら、魔物がすごい勢いで逃げていった。

「まぶし! ……インドラッ! 何やらかして……またかよ!?」

 ソードがギョッとした顔で私を見る。

 私は人さし指を振りながら、ソードの言葉を訂正する。

「今の私は黄金幼ッ女だ」

 ソードが大股で私に近寄りアイアンクロー!

「魔物が逃げちまっただろうが!」

 待ってソード、せっかくの黄金髑髏の被り物が変形しているじゃない。モンスターをハンターするゲームに出てくる、ボーンヘルムをかぶったオトモみたいになってかわいいかなと思って大きめに作ったんだから。ソードの指の形に『めきょ』ってへこんでいるじゃないの。

 しかもソードったら、自分でやったくせに「うわ、すげー不気味になった」とか言ってるし。

「これなら、仮面幼女ーよりもヒーローっぽいんじゃないか?」

 私がソードに促したら、

「お前、ヒーロー英雄の意味をわかって使ってんのか? それともお前の知識だと、ヒーローってのは不気味な姿でとんでもねー現れ方をするって解釈をしてんのか?」

【英雄】と呼ばれるソードが、質問を辛辣に返してきた。


 確かに、簡単なモチーフのヒーローはちょっとアレな格好をしているんだよねぇ。

 うーん、そうなると……やっぱりあのヒーローにするべきかな?


          *


 もう少しで町に到着するってときに、盗賊に襲われている商隊を発見! ぃやっふぅ!

 ワクワクしながらソードを見たら、ソードがハァ、とため息をついて肩を落とした。なんだろその反応。

 諦めたような声でソードが私に言った。

「……ギルドの依頼じゃねーのに首を突っ込むと面倒なことになるんだけど。一応、やられている方に介入していいか聞いてからだからな」

 そういうものなのか。


 そもそもが、シャールが爆走してきた時点で商隊も盗賊も魔物が乱入してきたのかとギョッとして動きを止めたのよ。その後すぐにソードが降り立って、ちょっと落ち着いたようだ。

「Sランクパーティ【オールラウンダーズ】のソードだ! 事態を収束するための介入を希望する者はいるか!?」

 ソードが大声で尋ねると、皆、どうするか迷いながらソードを見つめていた。

 うむうむ。いい感じでソードが注目を浴びているので、ソードの前に着地すれば私が注目されるな。

「とぅっ!」

 かけ声をかけて飛び出す。

 スチャ、と、ソードの前に降り立った私。拡声魔術で宣言した。


「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそは、幼女パンマンである!」

「「「「「「ギャーーーーーーッ!!!!」」」」」」


 私を見た商隊の人間と盗賊が、ものすごい悲鳴を上げた。

 失禁している人もいるんだけど。何この阿鼻叫喚の地獄絵図。

「インドラッ!!!!」

 ソードがめっちゃ怒ってる。

「う、うむ? これはウケるかと思ったのだけどなぁ。顔がパンで出来ているんだぞ? いい匂いもするだろう?」

 別世界の国民的ヒーローを模して、おっきいパンを焼いて頭をズボッと突っ込んだのだ。服はもちろん赤の全身タイツね。

 顔の形に成形したつもりだったんだけど、焼いたらちょっと不気味になっちゃったから悲鳴を上げられたのかなぁ。

 私が首をひねっていると、怒ったソードが私の顔をむしり取った!


「「「「「「デュラハン!!!!」」」」」」


 って、悲鳴を上げられた。違います。

「上着に頭を突っ込んで隠す」という古典的手法ではなく、光学迷彩で頭を不可視にしているので、違和感なく頭が取れたふうになっていると思われ。

「もちろん、これは食べられるぞ。食べるか?」

 と私がパンを指さして皆に話しかけられたら「ヒィッ!」と悲鳴を上げられたし。

「テメェッ、いい加減にしろ!」

 ソードがシックスセンスを駆使して、見えない私の頭をわしづかみして、アイアンクロー!

「ギャー!」

 今度は私が悲鳴を上げた。

「いいか!? もう二度と不気味な格好をして現れるなよ!? わかったか!?」

「い、イエッサー!」

 やっぱりウケなかった。

 残念無念だけど、変身ヒーローごっこはこれにておしまい。


 このあと、完全にる気が削がれた商隊と盗賊のみなさんはソードの説得に素直に応じ、話し合いで解決しましたとさ。せっかくだからと私はパンを渡した。私が千切って渡すと、全員が泣きながら、震えつつおとなしく受け取っていた。

 やっぱり幼女パンマンのパンは、平和のシンボルだね!


おわり。

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