なろうキリ番SS〈お決まりの言葉を言ってみよう〉
ソードはモテる。
この世界のモテる基準は、顔でもスタイルでも強さでも性格でもなく『金を持っているかどうか』だ。働けなくなったら即死につながるこの世界、お金は命と同じくらいだいじ。特に女性の地位が低いときたならば、金持ちに嫁ぐもしくは愛人にしてもらって囲ってもらうのは超重要。ちなみにこの世界の愛人はわりと公認だ。(金持ちの甲斐性みたいな考えがある)
とはいえ、容姿はちょっとだけ関連ある。何しろ、ろくでなしの我が父親は妻の持参金で遊び歩いていたわけだが、妻になった女は男の舌先三寸の安い口説き文句と容姿に騙されたわけだからね。
それでいくと、容姿はそこそこ金はそこそこなんてもんじゃないソードは、モテ基準をぶっちぎっているのだ!
ゆえに、女性からの攻勢がすごい。今も美人局に引っかかりそうになって舌打ちしている。
「おいインドラ。お前のその明晰な頭脳で俺のこの状況をどうにかしてくれ」
――路地裏で叫び声が聞こえ、ソードと共に駆けつけたら女性がソードに半裸で迫ってきた。脱力したソードは女性を邪険にしたが、女性は遅れてやってきた野次馬らしき男性達に聞かせるように『ソードが襲ってきた、責任取ってよ』って言い、恐らくグルであろう野次馬の男性達も責任を取れつまり金を払えと野次っている。
「お前は特殊性癖だから女には興奮しない、と暴露すればいいのか?」
「特殊性癖は取りのぞいて! ただでさえ、お前との変な噂が立ってるんだから!」
ってソードに怒られた。
なるほど。私と噂になっていても真逆の女性に言い寄られる今現在なのか。
うーむ、と私は腕を組み、ソードに提案をする。
「ならば私が半裸にしたということにしてもいいが」
「じゃあ、お前が『襲われた』って迫られた場合のパターンを今やってみて。見本にできたら、する」
ふむふむ。
ソードが一歩引き、私が一歩前に出ると、女性が戸惑った。野次馬連中もだ。
「私がソードだ!」
まずは第一声。嘘から始まりました!
女性は目が点になっている。
「……え? えーとぉ……そっちの彼がやっ」
「私がやったことにしろ! 話が続かない!」
女性の言葉を遮って言った。
女性は「いや、そうじゃ」とか、男連中は「おい、どうなってんだ?」「――おい、エイダ、小僧に構うな無視して続けろ!」とか言っているが、私が続けます。
「私はお前を愛する気は無い!」
しーん。
全員が『何言ってんだコイツ?』という顔をしています。
だがかまわない!
私は腰に手を当て女性を見下すように顎を突き出した。
「ふふん。お前が私をどれだけ愛していようが、私には愛する者が別にいる! なりふり構わず迫ってこようとも無駄だ! 私は『真実の愛』に目覚めたのだ!」
「……はあ……」
女性に「それがどうした」みたいな顔をされたけど、私は負けずに続けますよ!
「リョーク!」
私が呼ぶと、シュタッ! と現れるリョーク。
するとなぜか阿鼻叫喚になる。
私は金切り声をあげる女性にリョークを紹介した。
「これが、私の愛する者だ!」
「「こんにちは! 僕は、リョーク!」」
お決まりの、左右に揺れながらの片手挙げ挨拶。
「むふ~。……お前如きがこのリョークのラブリーさに到底敵うわけはないと理解したか? とっとと私を諦め、身の丈に合った男と結婚しろ!」
と、決めゼリフを叩きつけた。
リョークもノリノリで、
「「ごめんなさい。私たち、真実の愛に目覚めてしまったの……」」
とか言っている。
女性は怯え錯乱し「魔物がしゃべった!?」とか叫んでいてぜんぜん話を聞いてくれてない感じだけど、まぁいいや。
私はくるりとソードに向き合った。
「……とまぁ、こんな感じだ。相手の納得など無視で、リョークとの真実の愛を見せびらかせば、相手は諦めざるを得ないだろう」
納得してないというか、話を聞いてくれなかった感じはあるけど、些細な違いだね!
ソードは眉間にしわをを寄せ額に手を当て唸り、考え込みながらブツブツ言い出した。
「――羞恥をとるか、トラブル回避をとるかの選択かよ……」
あァん? 羞恥とはなんぞや!?
ソードはよくわからない苦悩をしていたが、結論が出たように顔を上げた。
「よし、わかった。とりあえずトラブルに遭ったときはリョークを呼べばそれなりに解決するってこったな」
うん? なんか違う解釈をしたみたいだけど。
変な解釈と納得をしたソードが、男連中に向き直った。
「やいテメェら! これ以上俺に絡んでくると、俺のリョークが悋気を起こしてテメェらを糸でぐるぐる巻きに縛り上げて吊しちまうぜ?」
…………何を言いだしてるんだろ。
むしろ私がメラメラしちゃうぞ!
しかも、
「ソードさんとラブラブの僕たちでーす」「いぇーい、ラブラブ~」
とか言いだしたんですけど。
私との真実の愛はドコいった?
男連中も女性も逃げていった。半裸のあの女性、あんな格好じゃ捕まると思うんだけど。もしも捕まって、「ソードにエチチなことをされたんだ」ってまた言いがかりをつけてきたら、リョークと共に私たちの真実の愛を語り続けてあげるケドネ!
逃げる連中の背を見ながら、ソードは顎に手を当てて感心している。
「なるほどな。リョークを呼べばある程度はどうにかなるのか」
「私のリョークをダシにするな」
ムスッとしながら言ったら、ソードが私を見てニヤニヤした。
「真実の愛って、儚いな」
キ━━━━ッ!
なんで私がざまぁされないといけないのよッ!?
(終わり)
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