コミック2巻重版記念SS〈初! ラーメン!〉

 ソードに手料理をふるまってから、頻繁にねだられるようになった。

 たぶん、変わっているからだと思う。

 大豆から作るチーズ(乳製品アレルギー対応)のピザとか、麦蜜を使って甘辛くした焼き肉とか。

 ワイン煮込みなんか、「やめろもったいない! 酒で煮るとかナニ考えてんだよ!?」ってめっちゃ怒鳴るくせに、ウマイウマイ大好物とか言って食べ尽くすんだよ? ソレ、もったいないって言ってたワインで煮込んだ肉だぞ? って言いたくなる。

 ……まぁいい。おっさんだから言動が一致しないなんてよくあることなのだろう。ぴっちぴちに若い私にはわからないケドネ!


 さて。

 本日はかねてより作ろうと思って準備してきた『ラーメン』に挑もうと思う。

 貴族ではタブーとされる『啜る』だが、ソードは平民の冒険者だ。そしておっさんだ。啜る行為に抵抗など微塵もないだろう。


 骨からスープをとる方法もあるけれど、肉からでいいや。ソードからもらった謎肉を大鍋で煮立たせないように気をつけながら煮る。適当に屑野菜と発酵させた野菜もブチ込む。

 あくを丁寧に取り、じっくり煮込んだ肉を取り出す。

 取り出した肉は、発酵させた野菜をすり潰したものに甘味料と塩を加えて作ったソースを塗り、表面を焼く。

 何度か同じ工程を繰り返して、なんちゃってチャーシューの出来上がり!


 スープは塩で味を調えて豆乳をちょっと加えたら終わり。


 あとは麺だ。

 木炭を粉にしたもの(微粉末にするのは簡単に手でできた。なぜだろう? この世界の木炭って脆いよね)を水に溶かし、しばらく置いて、上澄みだけを使う。

 この水溶液で小麦粉と卵を混ぜて捏ねればあっという間に中華麺っぽい生地の出来上がりだ! 簡単だね!

 匠の技で伸ばして細切りにし、茹でてスープに入れたらなんということでしょう。異世界でラーメンが出来ちゃったよ!


 ただ、葱っぽい野菜がわからなくて諦めたんだけど。煮玉子も諦めた。しょうゆがないんだもん。


 適当にソードのくれた野菜からラーメンに合いそうなのをピックアップして炒めて上に乗せ、チャーシューをスライスしてトッピングすれば完成~。


 ソードは既に席でワインを飲みながら待機している。

「ずいぶんと手が込んでる料理を作ってたな」

「うむ。ちょっと作ってみたいと思って挑戦したものなんだ。ぜひ感想を聞かせてほしい」

 ラーメンを持っていくと、ちょっと困った顔をした。

「……スープなのか? いいけどよ……」

 うん、まぁ、ラーメンは酒を飲んだシメの食べ物だったね。

 でも、ラーメンをツマミに酒を飲む人もいたからいいの。


 ――だが。

 作りたい意欲で作ったものの、私はここにきて気づいてしまった。


 ラーメン。

 に、ワイン。

 そして、それをフォークで食す。


 ワインとは合わない。

 のびる。

 啜れない。


 …………。

 モヤッとした私は、ソードに向かって厳かに伝える。

「この料理には、お作法がある」

 それを聞いたソードが、眉根を寄せた。

「……俺は、貴族のめんどくせー食事作法を真似する気はねーぞ」

 と、言いながらフォークでお上品に食べようとするソード。


「違う。私が考える、この料理を美味しく食べるコツだ」

 そう言って、おもむろに箸を取り出す。

 ソードは啞然として、フォークを宙で止めた。


「手本を見せよう」

 私は、箸を巧みに使い、麺をつまんで口に持っていき……。


 ズルズルズルッ!


 思い切り啜った。

「……どうだ、わかったか? こんな感じだ」

 そう言いつつ顔を上げたら、ドン引きしているソードがいた。

 口元をヒクヒクさせながら私を見ているんだけど?

 ……おっさんにドン引きされる食べ方をしている私って……。

 ムカッとしたので、ビシ! とソードを指さして怒鳴った。

「これが美味しい食べ方なのだ! こう食べるのだ!」

「えぇー……」

 ソードがすっごい嫌そうな顔をしている。

「じゃなきゃもう作らない! 料理しない!」

「わかった、やるから」

 駄々を捏ねたら即ソードが折れた。


 ソードに箸を渡すと、なんとも言えない顔をしつつおぼつかない手つきで麺をすくい上げ、口に持っていき……。


 ズルズルズルズルッ!

 ビシィッ!


「ギャアアアア!」

 汁が跳ねた! 私の顔、つーか目にダイレクトインした!

 私は地面を転がり、痛がった。


 ちなみにソードはそんな私のありさまが面白かったらしい。笑ってたよ。

「お前がやれ、っつったんだろうが」

「……確かにそうだから文句を言わない」

 むくれながら言った。ソードはまだ笑ってるし。


「ま、慣れればお前が使うほどに出来るんだろうが、せっかくの熱々スープが冷めちまうからフォークで食うわ」

 と、上品に食べ出すソード。

 スープが冷めるのもあるけど、麺がのびちゃうね。


 食べ終わってから言った。

「次回、あの料理を食べるときはエールにしてほしい。あの料理にはエールが合う」

「今さら言うなよ。ワインにも合ったぜ?」

 そんなことを言っているけど、違うね! このおっさん、酒ならなんでもいいって思ってるね!

 むくれると、けげんな顔をしながらほっぺをムニムニ押してきた。

「なんだ? なんでむくれてんだ? ……わかったよ、エールにするけど……。なら、お前の造ったエールが飲みたいから、よろしくな」

 それ、当分先の話。


 ――いつか、私がここを出て、どこかに落ち着いて、もしも酒を造ったら、私のところに買いに来てね。(終わり)




※オールラウンダーズ!! コミック2巻重版記念SSでした。

 2巻って二人が別れ別れになるのがメインなので、必然的に旅に出る前になるんですよね……。

 この頃はまだ気のおけない仲ってほどではないので、ちょっと固い二人です。

 久しぶりに1巻を読み返したら、麦蜜が出てきてないんですよね。エールを作ってない設定にしたのか。原作もコミカライズもその辺を曖昧にしているので、〝甘味料〟と表現しています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る