番外編SS

〈2021お正月SS〉 (既読211話)

 あけましておめでとうございます。

 この世界にはお正月がありません。ニューイヤーの概念がないみたい。

 そういうワケで! 拠点に戻った私はお正月をするのだ!

 拠点にはアマト氏がいるしね!

 二人でお正月のお約束を広めるのだ!


 まずは、おせち料理……と言いたいところだが、手に入らない食材が多い上に別世界の語呂合わせの料理なんだよなー。

 それに、私が戻ると料理人が張り切って料理を作る。

 そりゃあもう、腕によりをかけて、毎日張り切って作る。

 なので、「日持ちするものを大量に作って新年は休め」なんて言えない。

 なら、私がいないときに休むだろう。


 逆に「正月は新年が始まる祝いなので……」と私が言いかけたら、

「そうですか! では、祝い料理を作りましょう! お任せください!」

 と、料理人がますます張り切り、目を輝かせて返してきた。

「そ、そうか? ……では、よろしく頼む」

 私は満面の笑みをたたえる料理人に、内心を押し隠し朗らかに挨拶して、厨房を出た。

 …………うん!

 お正月はゴチソウだ! ヨシ!

 私は自らを納得させた。


 次は、お正月の飾り付け。

 門松に、しめ縄だっけ。鏡餅は後回しにしよう。

 まずは紅白で飾りを作ろうとしたら、ソードに見つかって、すごく嫌な顔をされた。

「ん? どうしたのだ?」

 私が首をかしげて聞くと、ソードが顔をしかめたまま、飾り付けを指さす。

「そりゃ、なんだ?」

 ……なんだと言われても。

「新年を祝う飾りの一部だな」

 私がそう答えたら、ソードが私と飾りを見比べる。

「……お前が好きな色は青緑だろ? なんで血みどろ魔女のパーソナルカラーを俺のパーソナルカラーに絡めるんだよ?」

 おおっとぉ。そういうことか。

 確かにそうも受け取れるけど、それにしてもそんなに嫌な顔をしなくても。

「紅白はめでたい色の組み合わせなんだが」

「そんな常識はここにはねーよ! やるなら白と青緑でやれよ」

 …………。

 思い浮かべたが……なんか、めでたい感じがしない。というか地味。

 やーめたっと。私は飾り付けを放棄した。


 最後に、餅つき!

 杵と臼っぽいのは作った!

 もち米は、ベン君が仕入れてくれたのがある! (いろんな穀物を仕入れてくれた中にあった)


 私は皆を呼んで庭で宣言した。

「餅つき大会~!」

「ウェーイ!」

 アマト氏、ノリノリで拍手してくれる。

 ちなみに、アマト氏とソードには着物を着せた。

 私は、牛柄の着ぐるみだ。

 チャージカウとも違う、白地に黒のブチのね。

 首にはカウベル、頭には牛の角を装着しているぞ!


「ソード、打ち合わせ通りに頼むぞ」

 私が言うと、ソードが真剣な顔でうなずいた。

「お前こそ、頼むからそれで俺を粉砕するなよ?」

 私が餅をつく人で、ソードが返す人ね。


 ――アマト氏は餅つきを知っていそうだったので頼んだら、ソッコー断られ、「なら俺がやってやるよ」とソードが名乗り出たのだけど、私とアマト氏がやり方を解説したら、見る間に後悔をにじませたのだけど。

 そして先ほどのセリフを何度も繰り返しているのだけど。


 私は蒸し上がったもち米を臼に置き、杵を手に取った。

 そんなに緊張しなくても……というくらいに緊張しているソード。

 杵を振りあげ……。

「ふんっ!」

 振り下ろしたら、臼が爆散した。


「……じゃ、俺が打つから、お前が返しな?」

「……わかった……」

 ソードが、落ち込む私の頭をなでて、杵を持つ。

 ……力を入れたつもりはなかったし、予行演習のエア餅つきではそんなことなかったのにな。


 ――臼のそばにいたソードは爆散の衝撃に巻き込まれてすごい吹っ飛んでいった。

 その次に近くにいたアマト氏も吹っ飛んだが、二人ともケガはなし。

 そばにいたのがチート野郎どもで良かった。


 仕切り直しで、予備で作っておいた臼を出し、蒸したもち米を入れた。

 ソードは澄ました顔をしているが、内心ウキウキしているらしい。さっきから杵を手放さないし、挙動がソワソワしている。

 実は、餅をついてみたかったとみた。

 ソードが構え……。

「いくぜ!」

 振り下ろしたら、もち米が爆散した。


「じゃ、次は俺がつきまーす。クララさん、返しよろしくね!」

「アマトさん、お任せ下さい」

 キャッキャッとアマト氏やメイドや使用人料理人が楽しそうに餅をつくのを、私とソードは体育座りをして眺めてます。

「……なぜ臼が砕け散ったのだろう? 練習ではそんなことなかったぞ?」

 私がつぶやくと、ソードが答えた。

「お前、テンションが上がりすぎて魔王かってくらいに魔素が集まってたぜ。あの打撃道具で何を倒す気だよ、ってくらいにな」

 マジか…………。でも。

「……そういうお前もだぞ、ソード。気合いが入りすぎて、あの打撃道具で攻撃対象であるもち米を粉砕して、飛び散らせたじゃないか」

「…………」

 ソードと二人でしょんぼりと膝を抱えた。


 皆がついたお餅は、普通においしかった。


 ――そんな新年の始まりだけど、本年もよろしくお願いします。ペコリ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る