亡霊が語るは《史実》か、真実か

雨の降り続ける晩、写本を生業とする「私」のもとに訪れたのは荷を抱えた大狸。大狸が荷をほどくと驚くほどに分厚い書が現れた。大狸はそれを《千年分の史実》だという。これを何十年掛かっても複製してほしいと。
やむなく依頼を引き受けた「私」だったが、雨が降るごとに史実に登場する亡霊が訪れるようになり――

この冒頭だけでも、いっきに惹きこまれました。
史実とは勝者が創るものであり、後に生き延びたものたちが築いていくものです。それゆえに史実が真実であるとはかぎりません。されども真実が史実になることもまた、ないのです。
その違いを「私」はどう綴るのか。乾かぬ筆とはなんなのか。亡霊が語るのは史実か、真実か、それとも――

ほんとうに興味がそそられる話で、だからこそ2千という文字数が悔しい。もちろん、この狭い枠のなかでこれだけの物語を描かれた筆力は圧巻の一言なのですが、もっとそれぞれの逸話を読みたい。読ませていただきたい。
そんな読者の欲が湧きました。

是非とも皆様もご一読ください。想像を掻きたてられること、間違いなしです。