モスタル
第2話 モスタル
「君にもおいらがみえるのかい」
「うん」
彼の手は震えていて、ドアノブが確かに在るのを確かめるように握って答えた。
「コトルに見えるのなら、僕にだって見えるさ。双子なんだから、僕たちはいつだっておんなじだ。同じものを食べて、同じ時間眠って、同じ夢を見る。……でも今度だけは、今度だけは違う。……君はコトルを連れて行った。……だから僕は行く」
床にはさっき投げられたジャムの瓶が転がっている。おいらを叩いた箒も。
「出るのかい、外に」
「コトルと約束したんだ」
薔薇のつぼみのような紅い唇を悔しそうに歪めて、おいらをきっと睨む。泪の痕が乾いて陰りを作っている。
おいらを怖がっているのだろう。もしくは嫌っているのだろう。それか両方。
コトルは彼、モスタルを怖がりだと言ってからかった。彼は一度もこの家を出たことが無かったからだ。
今この瞬間までは。
彼はいつもコトルがやっていたみたいに、重く軋む木戸に体重を掛け、扉を開けた。
外の空気が一気に流れ込んできて、彼の肺を潜ってゆき身体を満たしている。
「さあ、ここから外だ」
モスタルは、彼を支えるものが何も無い、ずっと続く草原に圧倒された。そしてちょっと頼りなさげにふらついたあと、重そうに足を前に出した。草の感触を、薄い靴底越しに踏みしめて。
彼の小さな家とおいらを残して、白い岩肌が覗く淡い緑色の上を歩いていく。
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