第11話 蛇
白い蛇は少し意地悪そうに見える。見え隠れする小さな火のような舌と僕を品定めしているような眼差しで。
「君は、人間に似ているね」
僕は顔が一瞬で熱くなった。
「私は、人間が嫌いでね。聞いたことあるかい? この山をずっと越えたところにいる奴らさ。……私が手足を無くしたのは罰だって、彼らは言う。愚かな行いをした罰だと。いったい何を知っているというのかね」
「あなたは哲学者だと聞いた。コトルから」
僕は一生懸命気を取り直そうとして、コトルのことを思い出そうと半ば躍起になって言った。
蛇は話を続ける。
「人間の世界から逃げてきたのさ」
空を泳ぐように揺らめいてうねり、僕に近づいた。
「あの子は私の割れた舌を見ても怖がらなかったね。よく彼女の頭の上に乗って散歩したものだ。今でもあの子の体温を憶えているよ」
「僕は、君たちみたいに憶えていられない。こうして、風が吹けば匂いも、声も、感触も僕からどんどん抜けていくと感じるんだ。僕だけが取り残されている。悲しみだけがいつまでも消えない、淋しさは増す。なのに君たちは、大事な友達が死んだのに、どうして泣きもしないの?」
「生憎、涙というものを持っていないんだよ。哀しいときに目から塩水を流すという意味のね。だいたい、何の意味があるのかね。……それに私たちは、本当のことを知っているからね」
「本当のこと?」
「あるものが、在るべきように、在るように」
「分からないよ」
僕には彼の言葉が呪文かなにかに聞こえる。
「いつかわかるさ。いまは目的があってきたんだろう」
「うん、僕あの林檎の木と話がしたいんだ。僕が木に登るの、手伝ってくれる?」
「私にはできそうにないな」
「どうしても、上まで行きたいんだ」
「それなら、君の後ろの影にお聞き」
僕は震えた。
影だって?――奴は僕からコトルを奪ったじゃないか。
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