ほんとうの《嵐》は読み終えた後にくる

「僕」は堤防にたたずむひとりの奇麗な女の人を見掛けた。彼女の白肌はしっとりと潮にしめり、服までもがぐっしょりと濡れていた。こんなところでなにを、と訊ねた「僕」に彼女は「約束をしたの」といった。
そうして彼女は訊ねる。「明日も来る?」と。
思わず頷いたそれは、彼女と《約束》を結んだことになるのだろうか。

荒れる海に落ちていくように惹きこまれ、何度も読みかえしております。
怖い、ような。悲しい、ような。ああ、あるいは切ないのだろうか、このきもちは――と、一度読み終えてから現在まで、この掻き雑ぜられた胸のなかの感情を巧く言い表すことばを捜し続けています。けれども見つからないのです。
ただひたすら、浪に揉まれるようにして、言葉に、場景に、こころを掻き雑ぜられます。そうしてそれが心地いい。

どうかこの読了感に酔いしれていただきたく、こころからおすすめ致します。

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