ささやかな非日常が、日常に小さな罅を入れる、かもしれない。

嵐が迫る九月。海沿いの道で、主人公が愛犬の散歩中に出会ったのは、身体を海水で濡らし、季節外れの服を身に着けた、浮世離れした女性だった――。
もし、あの時、あちらの道に進んでいたら。誰しも経験のある未来の分かれ道に主人公が立った時、どちらの道に進むのか。嵐を予感させる強風に煽られた風景を、教室の中から見守っていた「あの頃」の空気が蘇るのを感じながら、「選ばれなかった」方の未来に思いを馳せています。
あっという間に過ぎ去っていく夏と秋の境目の季節が愛おしくなる、空気の捉え方が丹念で素敵な短編でした。

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