銀狼は花の乙女に癒され、まどろむ ~身代わり侍女は冷酷皇帝の抱き枕~

作者 綾束 乙

ひとたび渡り始めたら、最後まで揺れ続ける吊り橋のような物語

  • ★★★ Excellent!!!



 銀狼国の皇帝は銀狼の血を受け継ぎ、その血によって強大な力を発揮するというのです。が、その代償として肉体に激しい痛みを受け続けることになる。その痛みを癒すことのできる唯一の存在が「花の乙女」と呼ばれる特殊な力を持つ女性たちでした。

 「冷酷皇帝」の異名をもつ皇帝ウォルフレッドは、激しい皇位争いを勝ち抜いた若者ですが、残酷であるとの噂が絶えません。

 その冷酷皇帝のもとへ侍女として召し抱えられたトリンティアは、貴族の養女ではありましたが、激しい虐待に遭った過去を持つ薄幸な少女。そんな彼女がある日、仲間の意地悪で、誤って皇帝ウォルフレッドと王宮の廊下でぶつかってしまうのです。
 恐れおののき、死を覚悟するトリンティアでしたが、冷酷皇帝のリアクションは彼女の予想を超えていました。
 なんと、トリンティアは特別な力をもつ女性、「花の乙女」であったらしいのです。

 トリンティアは、運命の導きにより皇帝の側に仕えることになります。ですが、そのお役目はなんと抱き枕。なんと「花の乙女」であったトリンティアは、皇帝の痛みを癒すため、肌身離さず侍らせられることになるのです。

 しかも銀狼の力を持つウォルフレッドは、トリンティアのことを「鶏ガラ」と呼び、まるで荷物のように片手で抱えて王宮内を歩き回ります。最初は怖くて仕方のなかったトリンティアなのですが、だんだんウォルフレッドの本当の姿を知るにつれ彼に……。

 一方ウォルフレッドも政治的な理由とか、おのれの痛みを癒す鎮痛薬としてトリンティアを利用するつもりでいたのですが、純真な彼女にだんだんと興味を持ち始めます。

 が、うまく異性とコミュニケーションを取れない二人は、勘違いと誤解をつみ重ねます。

 惹かれ合っているのに、すれちがう二人の気持ち。物理的な距離は極めて近いのに、その感覚や価値観は、天と地ほどもズレているのです。相手を思いやる行動が誤解を呼び、裏目裏目と食い違ってゆく二人の気持ち。しかも、王国はいま不穏な状態なのです。

 恋愛物としても一級品ですが、宮廷物としても完成度が高いです。ひとたび渡り始めたら、延々と揺れ続ける吊り橋のよう。どきどきしっぱなしで、思わず相手の腕にしがみついてしまいそうな物語です。
 つぎつぎと展開するストーリーが、読み始めたら最後、あなたの心をぐいっぐいっとつかんでラストのページまで放さないことでしょう。



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