第5話 魅力がいっぱい!
今日は部活中に尋常じゃなく嬉しい出来事があった。
部活を終えてみんなと別れた後、一目散に駆け出して寮へと向かう。
部屋に戻るや否や、窓の近くにいる友璃奈先輩を発見。
換気のために窓を開けようとしているらしく、私は「友璃奈せんぱ~いっ!」と背中に声をかけながら近寄った。
「聞いてください友璃奈先輩! 実は今日、部活で
「へぇ、すごいわね」
カーテンと窓を開け放った友璃奈先輩はベッドに移動すると、腰を下ろしてスラリと長い脚を組む。
なんてことのない所作であるはずなのに、息を呑んでしまうほど優雅かつ魅力的な光景に思えた。
私のようなちんちくりんが真似しても、きっと同じような印象は持たれない。
「えへへ、ありがとうございます! しかもブザービターだったから、部内の紅白戦とはいえすっごくテンション上がっちゃいました!」
「そう、よかったじゃない」
「はい! あと、はしゃいでピョンピョン飛び跳ねてたんですけど、みんなが言うには垂直に1mぐらいジャンプしてたらしいですよ!」
「ふぅん」
「それに――って、すみません、うるさかったですよね」
私は自分の勢いと声の大きさに気付き、一旦口を閉じる。
そしてさりげなく、友璃奈先輩の隣に座る。
「えっ、いや、別に。というか、私こそごめん」
「なんで友璃奈先輩が謝るんですか?」
「だって、素っ気なく相槌を打つぐらいしかできないから。私は蕾と話せて楽しいけど、これじゃあ蕾は気分悪いわよね」
「そんなことないですよ! あと、友璃奈先輩が楽しいって思ってくれてるんだって知れて、めちゃくちゃ嬉しいです! 私も友璃奈先輩とのおしゃべり、とっても楽しいですよ!」
「そういうことを面と向かって言われると、さすがに照れるんだけど……」
「ふふっ、照れてる友璃奈先輩もかわいいですっ」
頬を赤らめて視線を逸らす様は、普段のクールな雰囲気とはまた違う魅力を感じる。
「かっ、かわ……っ!? ごめん、ちょっと顔洗ってくる」
友璃奈先輩は私に顔を見られないようにしながら、この場を離れた。
人との関わりを避けてきたことを考えると、あまり褒められ慣れていないのかもしれない。
照れてるところもかわいいけど、故意にそういう反応を引き出そうとするのは心が痛む。
今後はできるだけタイミングと言葉を選んで褒めることにしよう。
***
しばらくして戻って来た友璃奈先輩は、まだ頬がほんのり赤かった。
「さっきの話だけど、垂直跳びで1mというのもなかなかすごいわね」
「そうですか? えへへっ、もっと褒めてください!」
「はいはい、すごいすごい」
「心がこもってないです!」
「催促されると、褒める気も失せるわよ」
「私は友璃奈先輩のことを褒めろって言われたら、喜んで褒めますよ!」
「あっそ。私に褒めるところなんてないと思うけど、試しにやってみなさいよ」
そう言われた瞬間、私は無意識のうちに笑顔を浮かべていた。
つい先ほど自重を決めた行動について、本人の口からお許しが出たのだから。
「それじゃあ、遠慮しませんよ! まず一目見た瞬間に美人さんだなぁって感動しましたし声を聞いた時も静かなのにハッキリと聞き取れる耳通りのいいきれいな声でもしかしたら声優さんなのかなって思っちゃうぐらい滑舌もよくてそばに寄ると甘い香りがふわっと漂ってき――」
「ちょっ、ま、待ってっ。いますぐ止めてっ」
自慢の肺活量を発揮して息継ぎなしで述べ立てる私に、友璃奈先輩が慌てて制止の声をかける。
「え? は、はい、分かりました」
まだほんの触り程度にも満たないので、早く続きを語らせてほしい。
「ごめん、私が悪かったわ。それにしても、私なんかをそんなに褒めてくれるなんて、蕾って本当に優しいわね」
「いえいえ、それだけ友璃奈先輩が魅力的なんですよ! 私はありのままの事実を言ってるだけですから!」
「そ、そんなことないと思うけど……あ、ありがと」
友璃奈先輩の顔が、再びカーッと赤くなる。
「というわけで、再開してもいいですか?」
「ダメよ」
残念ながら、残りの九割超は次の機会に持ち越しとなってしまった。
「あっ、じゃあ内面について少――」
「絶対にダメ!」
今日のところは、潔く引いておくとしよう。
次の機会が待ち遠しい。
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