第8話 お悩み相談なら任せてください!
「うーん……時間を……いっそ勢い任せ……でも……告白って……」
ベッドに腰かけた友璃奈先輩が、眉間にしわを寄せてなにやらつぶやいている。
私が部活から帰った時にはすでにこの状態だった。
「友璃奈先輩っ、なにか悩み事ですか?」
邪魔をしたら悪いと思いつつも、少しでも力になりたいという気持ちが抑えられず、それとなく隣に座って声をかける。
「へ? つ、蕾っ? ビックリした……いつの間に帰ってたのよ」
「五分前ぐらいですっ」
いまの反応から察するに、それなりに大きな物音にも気付かないほど集中していたらしい。
部屋に入ると同時に「ただいま帰りました!」とあいさつしても無反応だった理由が分かり、ホッと胸を撫で下ろす。
無自覚のうちに嫌われることをしてしまったんじゃないかと、内心ハラハラしていた。
「そう、気付かなくて悪かったわね。悩み事ってほど深刻じゃないから、心配しないで」
友璃奈先輩はそう言いながら、ぎこちなく微笑む。
某有名探偵アニメの大ファンである私は、その笑顔に引っかかりを覚えた。
「こう見えても口が堅いので、遠慮せず話してください! どんなことでも絶対に言いふらしませんから!」
「いくら口が堅くても、声が大きすぎて周りに筒抜けなんだけど」
「ご、ごめんなさい」
至極もっともな指摘を受け、慌てて声量を抑える。
「蕾の気持ちは嬉しいわ。ありがとう。正直に言えば、悩んでるのは確かよ。ただ、別に暗い内容じゃないから、心配する必要はないわ」
少し気まずそうに視線を逸らす友璃奈先輩。
よく見ると、頬がほんのり紅潮している。
内容には見当もつかないけど、心配無用だという本人の言葉を信じよう。
とはいえ、先ほどのなにかが引っかかる感覚は捨て切れない。
「無理にとは言いませんけど、私でよければいつでも相談してくださいねっ」
「はぁ……あんたって、本当にもう……」
友璃奈先輩がゆっくりと立ち上がり、ベッドを離れる。
「お出かけですか?」
「お手洗い」
私は「なるほど」とうなずき、自分のベッドに身を投げた。
もしかすると、真実に到達したかもしれない。
友璃奈先輩の態度、言動、そしていま向かった場所。
これらの情報から推理すれば、自ずと答えは導き出される。
――友璃奈先輩はきっと、お腹の調子がよくないんだ。
この推理力、いずれバスケ部の名探偵と呼ばれる日が来るに違いない。
私は比較的入手しやすく整腸作用のあるリンゴを買いに行くべく、部屋を飛び出した。
***
後日談というか、あれからほんの数十分後のこと。
外出できなかったためリンゴは手に入らず、そもそも友璃奈先輩は別に体調を崩しているわけではなかったらしい。
見事に空回りしてしまったわけだけど、友璃奈先輩が健康でよかった。
あれ?
じゃあ、悩み事って……?
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