第9話 食レポ!
週末の夜。数日前に買って冷凍庫に保管しておいたカップアイスを、食後のデザートとして取り出す。
スプーンを用意したり紅茶を淹れたりする間に、カチカチだったアイスの表面がほどよく溶けていた。
食べるのに絶妙の状態となったアイスを前に、私と友璃奈先輩はテーブルを挟んで向かい合わせに座る。
いざ食べる直前になり、ふと手を止めて視線をアイスから友璃奈先輩に移す。
「実は私、食レポが得意なんです! 友璃奈先輩、ぜひ聞いてください!」
「やけに自信満々ね。いいわよ、お手並み拝見させてもらうわ」
友璃奈先輩の了承を得て、私は不敵な笑みを浮かべながらスプーンをアイスに伸ばす。
有名な企業とコラボした、チョコレート味のカップアイス。
スプーンですくったそれを口に運び、じっくりと味わう。
そして――
「ん~っ、おいしいです! 甘くて冷たくてチョコの味がして、とにかくすごくおいしいです!」
うんっ、我ながら上手にできた!
対面では友璃奈先輩が珍しく口を半開きにし、私の方を見ながら瞬きを繰り返している。
「ふふんっ、どうですか? 見事な食レポでしたよね!」
「え……本気? 冗談じゃなく?」
「はいっ!」
「なんというか、ハードルが一気に下がったような気がする。あたしもやってみようかしら」
「いいですねっ、ぜひやってみてください!」
私の食レポをきっかけにしてハードルが下がったことに関しては少し引っかかるけど、友璃奈先輩の食レポには非常に興味がある。
「はむっ、ん……」
友璃奈先輩がアイスを口に含み、静かに咀嚼する。
本人の魅力もさることながら、姿勢や所作などすべての要素が美しい。
この光景をそのまま映像化してCMとして流せば、それだけでも絶大な宣伝効果を得られるのではないだろうか。
「蕾の言う通り、すごくおいしいわ。口に含んだ瞬間にチョコの濃厚な甘さが口いっぱいに広がって、それだけでも幸せな気持ちに――うぅ、やっぱり難しいわね。私には無理だったみたい」
「素晴らしかったですよ友璃奈先輩! そんなに食レポが上手だなんて、なんでいままで言ってくれなかったんですか!?」
能ある鷹は爪を隠すとは、まさにこのこと。
私は友璃奈先輩の食レポに感動し、惜しみない拍手を送る。
「や、やめて、そんなに褒められると逆に恥ずかしいから」
「師匠って呼ばせてください!」
「絶対に嫌」
照れる友璃奈先輩と食レポについて話しながら、アイスを食べ進める。
必死にお願いした結果、これからもたまに友璃奈先輩の食レポを聞かせてもらえることになった。
いずれ私の特製スムージーを振る舞う際には、ぜひともお願いしたい。
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